
不動産投資信託(REIT)の相続税評価額は、その種類によって評価方法が大きく異なります。最も重要な点は、上場している不動産投資信託と非上場の投資信託では、相続税評価のアプローチが全く違うということです。
上場REITの場合、相続税法では上場株式と同様の扱いとなり、以下の4つの価額のうち最も低い価額を相続税評価額として採用します:
この評価方法により、相続開始日の株価が一時的に高騰していた場合でも、月平均価格を選択することで相続税負担を軽減できる可能性があります。
💡**実務ポイント:**相続開始日が休日の場合、Yahoo!ファイナンスなどで基準価額が表示されていません。このような場合は、相続開始日に最も近い営業日の終値を採用し、前後に等距離の営業日がある場合は、その2つの終値の平均値を使用します。
上場REITの計算手順
上場REITの相続税評価額は、以下のステップで計算します:
1️⃣ 基準価額の特定
残高証明書または金融機関からの取引報告書で1口あたりの価格を確認します。証券会社によっては残高証明書に価格が記載されていない場合があるため、その際は日本取引所HPの「月間相場表」やYahoo!ファイナンスで4つの価額を調べ、最も低い価額を採用します。
2️⃣ 保有口数の確認
相続開始日時点での保有口数を残高証明書で確認します。
3️⃣ 評価額の算出
1口あたりの価格×保有口数で基本的な評価額を計算します。
非上場投資信託の場合の複雑な計算
一般的な投資信託(非上場)の場合は、より複雑な計算が必要です:
評価額 = (1口あたりの基準価額 × 口数)- 源泉徴収税額 - 信託財産留保額 - 解約手数料
源泉徴収税額の計算:
含み益がある場合、その含み益に対して20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)の源泉徴収税額を控除します。
計算例:
評価額 = 500万円 - (30万円 × 20.315%)- (500万円 × 0.3%)= 491万9,055円
📊**注意事項:**基準価額が1万口単位で表示されている場合は、保有口数を1万で割って計算する必要があります。また、含み損がある場合は源泉徴収税額の控除はありません。
外貨建てREITの評価方法
外貨建ての不動産投資信託を相続した場合、相続開始日の為替レートで日本円に換算する必要があります。基本的に電信買相場(TTB)を用いて換算し、相続開始日に為替の動きがなかった場合は、最も近い営業日のレートを使用します。
未収分配金の取り扱い
REITから発生する分配金で、相続開始日時点で未だ受け取っていない分配金がある場合、これも相続財産として評価する必要があります。未収分配金は源泉徴収税を控除した後の金額で計算します。
複数取引所上場REITの特例
同一のREITが複数の証券取引所に上場している場合、各取引所の価格のうち最も低い価格を選択できます。これは相続税評価において非常に有利な規定です。
⚠️実務上の留意点:
小口化REITによる生前贈与戦略 🎯
通常の上場REITとは異なり、不動産の小口化商品や私募REITを活用した相続対策が注目されています。これらの商品は、実勢価格と相続税評価額との間に大きな乖離が生じることがあり、相続税の圧縮効果が期待できます。
小口化REITの相続税評価の特徴:
配当再投資型REITの活用法
配当を自動的に再投資するタイプのREITは、複利効果により長期的な資産形成に適していますが、相続税評価の観点からも興味深い特性があります。再投資された分配金は新たな取得価額となるため、含み益の計算において有利な場合があります。
借入を活用したREIT投資の相続対策効果
不動産投資と同様に、借入を利用してREIT投資を行う場合、借入金は債務として相続財産から控除されます。これにより、実質的な相続税課税対象額を減少させることが可能です。
💡上級者向けテクニック:
相続開始年の年末にかけて、含み損があるREITを一部売却し、含み益があるREITの評価額を調整する「損益通算戦略」も検討価値があります。ただし、この手法は相続開始タイミングが予測できる場合に限られます。
相続手続きの実務的な流れ
REITの相続手続きは、以下の順序で進めます。
1️⃣ 残高証明書の取得
各証券会社から相続開始日現在の残高証明書を取得します。複数の証券会社に口座がある場合は、すべての証券会社から取得が必要です。
2️⃣ 相続税評価額の算定
上記の計算方法に従って、各銘柄の相続税評価額を算定します。計算が複雑な場合は、税理士に依頼することを推奨します。
3️⃣ 相続税申告書への記載
相続税申告書の「第11表 相続税がかかる財産の明細書」に詳細を記載します。
よくある実務上の問題と解決策
🔍 問題1:基準価額の確認困難
休日や祝日に相続が開始した場合、基準価額の確認が困難になることがあります。このような場合は、証券会社や投資信託会社に直接問い合わせるか、金融情報サイトの履歴データを活用します。
🔍 問題2:複数の評価方法の混在
同一ポートフォリオ内に上場REITと一般投資信託が混在している場合、それぞれ異なる評価方法を適用する必要があります。評価計算書を作成し、適用した評価方法を明記することが重要です。
🔍 問題3:外貨建て商品の為替換算
外貨建てREITの場合、為替レートの確認と換算計算が必要です。金融機関によって適用レートが異なる場合があるため、事前に確認しておきましょう。
相続税調査での注意点
税務調査では、以下の点が重点的にチェックされます。
📋必要書類チェックリスト:
☑️ 残高証明書(相続開始日現在)
☑️ 取引報告書(直近1年分)
☑️ 基準価額証明書または価格情報の印刷物
☑️ 分配金計算書
☑️ 信託約款(手数料率確認のため)