行政代執行の条例根拠と法的要件の実務解説

行政代執行の条例根拠と法的要件の実務解説

不動産業者が知るべき行政代執行における条例の法的根拠と適用要件について、法律の委任関係や代替的作為義務の具体例を交えて詳しく解説します。実務での注意点も理解できているでしょうか?

行政代執行の条例根拠

行政代執行の条例根拠と法的基盤
⚖️
法律委任に基づく条例

行政代執行法2条により、法律の委任を受けた条例が代執行の根拠となる

🏢
自主条例の解釈

実務では地域の自主立法である条例も代執行の根拠として認められている

📋
代替的作為義務

条例で定められた作為義務のうち他者が代替可能なもののみが対象

行政代執行法第1条は「行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる」と規定し、同法が義務履行確保の一般法となっています。
行政代執行の根拠となる法的基盤について、行政代執行法第2条は重要な規定を設けています。同条では「法律(法律の委任に基づく命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為」について代執行できると明記されています。
この条文を素直に読むと「条例」は法律の個別の委任に基づく「条例」に限ると解釈できます。しかし、実務においては異なる解釈が確立されています。
条例による代執行の法的根拠の拡大解釈
条例で代執行の前提となる義務賦課行為ができないとすると、条例が地域の自主立法であるとする憲法の理念に適さないという問題が生じます。そのため、実務では法律の委任に基づく条例に限らず自主条例も含める解釈論で対応されています。
この解釈により、地方自治体が独自に制定した条例であっても、一定の要件を満たせば行政代執行の根拠となることが可能となっています。ただし、行政代執行法第1条の「別に法律で定めるもの」には条例は含まれないため、条例で法律よりも簡易な手続きで代執行を実施する規定を設けることはできません。
空家等対策における条例の活用例
実際の条例活用例として、大仙市空き家等の適正管理に関する条例があります。この条例では第14条において「市長は、前条例第1項の規定による措置を命じられた者がその措置を履行しないときは、行政代執行法(昭和23年法律第43号)の定めるところに従い、その者の負担において、その措置を代執行することができる」と規定しています。
また、空家等対策の推進に関する特別措置法第14条第9項では、行政代執行法の要件を緩和した「緩和代執行」の制度を設けており、市町村長が必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者が措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき、または期限までに完了する見込みがないときに代執行できるとしています。

行政代執行における法律委任の具体的解釈

行政代執行法第2条の「法律の委任に基づく命令、規則及び条例」という文言について、学説と実務の解釈が分かれているのが現状です。
個別委任説と包括委任説
個別委任説では、行政代執行を行うためには個々の法律が明示的に条例への委任を規定している必要があるとします。一方、包括委任説では地方自治法第14条の包括的授権による条例も含まれるとする解釈です。
実務では包括委任説が採用されており、これにより自治体は地域の実情に応じた条例を制定し、それを根拠として行政代執行を実施することが可能となっています。この解釈は、憲法が保障する地方自治の本旨に合致するものと評価されています。

 

条例制定における注意点
条例を制定する際は、以下の点に注意が必要です。

  • 義務内容の明確化:代執行の対象となる義務を具体的に規定する
  • 手続きの透明性:戒告、期限の設定、代執行令書の交付等の手続きを明記する
  • 費用負担の規定:代執行に要した費用の徴収方法を明確にする
  • 公益性の要件:代執行の必要性を基礎づける公益上の理由を明示する

特に不動産関係では、建築物の除却、修繕、環境整備等が主な対象となるため、これらの作業が「代替的作為義務」に該当することを条例上明確にしておくことが重要です。

 

行政代執行の代替的作為義務要件と条例の関係

行政代執行法第2条により、代執行できる義務は代替的作為義務に限定されています。この要件は条例を根拠とする場合でも同様に適用されます。
代替的作為義務の判定基準
代替的作為義務とは、義務者本人でなくても他の者が代替して履行できる作為義務を指します。具体例として以下があります:
代替可能な義務

  • 建築物の除却・解体
  • 土地の清掃・整備
  • 違法な工作物の撤去
  • 廃棄物の除去
  • 建築物の修繕

代替不可能な義務

  • 健康診断の受診
  • 営業の停止(不作為義務)
  • 占有の移転
  • 許可申請の提出

不動産業務における具体的適用
不動産分野では以下のような条例上の義務が代替的作為義務として認められています。
🏠 空き家関連

  • 危険な空き家の除却
  • 敷地の清掃・草刈り
  • 防犯上の措置(施錠等)

🏢 建築物関連

  • 違法建築物の是正
  • 建築基準法違反の解消
  • 外壁等の修繕

🌱 環境関連

  • 不法投棄物の撤去
  • 雑草の除草
  • 害虫駆除措置

判断が困難なケース
一定の義務履行のための方法が選択的に存在する場合は、代替的といえるかどうかの判断が困難な場合もあります。例えば、公害発生施設の改善命令などがこれに該当します。
このような場合、条例制定時に義務内容をより具体的に規定し、代替性を明確にしておくことが重要です。また、複数の改善方法がある場合は、どの方法でも代執行可能であることを明示しておくと良いでしょう。

 

行政代執行における公益性要件と条例適用の実務

行政代執行を実施するためには「義務の不履行を放置することが著しく公益に反すること」という公益性要件を満たす必要があります。この要件は条例を根拠とする場合でも同様に適用されます。
公益性要件の判断基準
公益性の判断については行政庁に裁量がありますが、以下のような具体的危険が存在する場合に要件を満たすとされています:
🚨 生命への危険

  • 倒壊の恐れがある建築物
  • 落下物による事故の危険
  • 火災発生の恐れ

🏘️ 近隣への影響

  • 衛生上の害虫発生
  • 悪臭の発生
  • 景観の著しい悪化

🌍 環境への影響

  • 地下水汚染の恐れ
  • 土壌汚染の拡散
  • 廃棄物による環境悪化

実務における判断ポイント
実際の代執行実施にあたって、自治体は以下の点を総合的に考慮して公益性を判断します。
📊 緊急性の評価

  • 被害拡大の速度
  • 影響を受ける住民の数
  • 被害の重大性

⚖️ 比例原則の検討

  • 代執行による負担と得られる利益のバランス
  • より軽微な手段での解決可能性
  • 代執行以外の代替手段の検討

条例における公益性要件の明文化
条例制定時には、どのような状況で公益性要件を満たすかを具体的に規定することが推奨されます。例えば。

第○条 市長は、次の各号のいずれかに該当する場合において、公益上著しく支障があると認めるときは、代執行を行うことができる。

(1) 建築物等の倒壊により通行人等に危害を及ぼすおそれがあるとき
(2) 衛生上有害な動植物が大量発生し、近隣住民の健康に影響を及ぼすおそれがあるとき
(3) 火災、爆発その他の事故が発生するおそれがあるとき

このような規定により、代執行の判断基準が明確化され、適正な行政運営と住民の権利保護の両立が図られます。

 

行政代執行と他の履行確保手段との使い分け

行政代執行以外にも、行政上の義務履行確保には複数の手段が存在します。条例を根拠とする場合でも、これらの手段との適切な使い分けが必要です。
履行確保手段の体系
🔧 行政代執行

  • 対象:代替的作為義務
  • 根拠:行政代執行法
  • 特徴:義務者に代わって行政が履行

即時強制

  • 対象:緊急の危険回避
  • 根拠:個別法律・条例
  • 特徴:事前の義務賦課なし

💰 行政上の強制徴収

  • 対象:金銭債務
  • 根拠:国税徴収法等
  • 特徴:滞納処分の手続き

⚖️ 執行罰

  • 対象:継続的な作為・不作為義務
  • 根拠:個別法律規定
  • 特徴:過料等の制裁金

不動産業務における使い分けの実例
🏠 空き家対策の場合

  • 代執行:危険な建物の除却
  • 即時強制:台風前の緊急的な応急措置
  • 執行罰:継続的な管理義務違反への制裁

🏢 違法建築対応の場合

  • 代執行:違法建築物の除却
  • 執行罰:使用停止命令違反への制裁
  • 強制徴収:改善命令履行のための負担金徴収

条例制定時の注意事項
条例を制定する際は、各履行確保手段の特性を理解し、適切な手段を選択できるよう規定することが重要です。
📝 手続きの明確化

  • どの要件下でどの手段を用いるかの基準設定
  • 複数手段の併用可能性の検討
  • 手続きの透明性確保

⚖️ 権利保護の配慮

  • 事前の警告・指導機会の確保
  • 不服申立て手続きの明示
  • 過度な負担とならない配慮

この使い分けにより、効果的かつ適法な義務履行確保が可能となり、住民の権利保護と公益の実現を両立させることができます。

 

行政代執行の費用徴収における条例の役割と特殊な論点

行政代執行に要した費用の徴収は、代執行制度の実効性を確保する重要な要素です。条例を根拠とする代執行においても、費用徴収に関する適切な規定が必要となります。
費用徴収の法的根拠
行政代執行法第5条により、代執行に要した費用は「国税滞納処分の例により、これを徴収することができる」とされています。また、同条第2項では「代執行に要した費用については、行政庁は、国税及び地方税に次ぐ順位の先取特権を有する」と規定されています。
条例における費用徴収規定の要点
💰 費用の範囲

  • 直接的な工事費用
  • 事前調査・設計費用
  • 現場管理費用
  • 事務処理費用

📋 徴収手続きの明確化

第○条 代執行に要した費用は、次に掲げる費用とする。

(1) 代執行に直接要した作業費用
(2) 代執行のために必要な調査、設計等の費用
(3) 現場管理その他の間接的費用
(4) その他市長が必要と認める費用

 

第○条 前条の費用の徴収は、国税滞納処分の例による。

 

特殊な論点:所有者不明土地での代執行
近年増加している所有者不明土地において代執行を行う場合、費用徴収に特別な配慮が必要です。
🔍 相続人調査の費用

  • 戸籍調査費用
  • 相続人特定のための調査費用
  • 公告等の手続き費用

⚖️ 費用回収の困難性

  • 相続放棄された場合の対応
  • 相続人が多数の場合の按分
  • 回収不能な場合の自治体負担

実務上の工夫事例
一部の自治体では、代執行費用の確実な回収を図るため、以下のような工夫を行っています。
🏦 代執行保証金制度

  • 事前に保証金の供託を求める
  • 金融機関の保証を条件とする
  • 不動産への抵当権設定

📊 段階的費用徴収

  • 小額の案件は簡易な手続き
  • 高額案件は分割納付を認める
  • 困窮者への減免制度

費用徴収における権利保護
代執行費用の徴収は強力な手段であるため、義務者の権利保護にも配慮が必要です。
📞 事前通知の充実

  • 費用の積算根拠の説明
  • 分割納付等の相談機会
  • 不服申立て手続きの案内

⚖️ 適正手続きの確保

  • 費用の妥当性審査
  • 第三者による監査制度
  • 透明性のある入札手続き

このような総合的な制度設計により、代執行制度の実効性と公正性を両立させることが可能となります。不動産業界においても、これらの制度を理解し、適切な対応を行うことが求められています。