
事実上の配偶者とは、法律上では婚姻関係のない者同士が社会的に見て夫婦と同一の生活をしている、いわゆる事実婚関係にある相手のことを指します。宅建実務において、この概念は不動産の相続や賃貸借契約の承継において重要な意味を持ちます。
厳密には、意図的な選択により「婚姻届」を提出しないまま共同生活をする事実婚関係は、何らかの事情をもって「婚姻届」の提出を欠いている内縁関係とは区別されます。宅建士として理解すべきポイントは以下の通りです。
実務上、不動産取引において事実上の配偶者は法的な配偶者とは異なる扱いを受けるため、契約書の作成や相続に関する説明時には注意が必要です。特に、共有名義での不動産購入や相続対策の相談を受ける際は、この違いを明確に説明する責任があります。
事実上の配偶者には、法律上の配偶者が持つ相続権は一切認められません。民法第890条で規定される配偶者の相続権は、法律上の婚姻関係にある配偶者のみに適用されるためです。
配偶者居住権についても同様の制限があります。配偶者居住権は、被相続人が所有していた建物に配偶者が相続開始時に住んでいた場合に認められる権利ですが、これも法律上の配偶者に限定されています。事実上の配偶者は以下の権利を取得できません。
ただし、救済措置として特別縁故者制度があります。これは相続人がいない場合に限り、以下の条件を満たす者が家庭裁判所に申立てを行うことで、被相続人の財産の全部または一部を取得できる制度です。
宅建実務では、事実上の配偶者から相続に関する相談を受けた際は、遺言書の作成を強く推奨することが重要です。
配偶者居住権の登記については、法律上の配偶者のみに認められる権利であるため、事実上の配偶者は登記請求権を有しません。これは宅建試験でも頻出のポイントです。
配偶者居住権の登記に関する重要事項。
事実上の配偶者の場合、借家権の承継については借地借家法により、相続人がいない場合に限り認められています。これは配偶者居住権とは異なる制度であり、宅建実務では以下の点を理解しておく必要があります。
賃貸不動産の管理業務において、借家人が事実上の配偶者である場合の承継手続きについては、相続関係を慎重に調査することが求められます。
宅建試験では、事実上の配偶者に関連する出題が民法分野で頻繁に見られます。特に配偶者居住権との関連で出題されることが多く、以下のポイントが重要です。
存続期間に関する出題パターン
使用収益に関する出題パターン
対抗要件に関する出題パターン
共有関係に関する出題パターン
令和5年の宅建試験では、配偶者居住権の登記設定義務について出題され、正解率が42.6%と比較的低い結果でした。これは実務的な理解が不足していることを示しており、条文の正確な理解が求められます。
宅建業者として事実上の配偶者に関わる取引を扱う際は、法的リスクを適切に説明し、予防策を提案することが重要です。実務において最も効果的な対策は遺言書の作成です。
遺言書作成時の重要事項
不動産売買における注意点として、事実上の配偶者が関与する取引では以下の確認が必要です。
賃貸管理業務では、借家人が事実上の配偶者の場合の対応マニュアルを整備することが重要です。
実務経験上、事実上の配偶者からの相談で最も多いのは「パートナーの死亡後に住居を失うのではないか」という不安です。この場合、以下の順序で対策を提案することが効果的です。
事実上の配偶者への適切な情報提供と法的リスクの説明は、宅建士の専門性を示す重要な機会でもあります。顧客の生活の安定と財産保護の観点から、包括的なアドバイスを提供することで、信頼関係の構築と業務の質的向上を図ることができます。
民法改正により配偶者居住権制度が新設されましたが、これは法律上の配偶者を保護する制度であり、事実上の配偶者には適用されません。この制度格差を理解し、適切な代替策を提案できることが、現代の宅建士に求められる専門性といえるでしょう。