
国有財産法第18条第6項は、行政財産について「その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる」と定めており、これが使用許可制度の法的根拠となっています 。この制度は、行政財産を管理する行政の長が、国以外の者に対し使用収益を許可するもので、行政上の処分として位置づけられています 。
参考)https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article1402274/
行政財産の本来の目的や用途に支障がない範囲で、効率的な運用を図るために設けられた制度であり、国民共有の財産である行政財産を最大限活用することを目的としています 。許可の可否については「許可することができる」という規定により、行政庁の裁量に委ねられているのが特徴です 。
参考)https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article1686181/
裁判例においても、使用許可について「許可するか否かは、原則として、管理者の裁量にゆだねられている」と判断されており、行政庁の専門的判断に基づく裁量処分であることが確立されています 。
使用許可の申請においては、まず「用途又は目的を妨げない限度」という基本要件を満たす必要があります 。この要件は、行政の長が管理財産の内容等を勘案し、その専門性を基に判断することを前提とした要件と解されています 。
具体的な申請手続きとしては、使用収益したい者が行政財産を管理する行政の長に対し、国有財産使用許可申請書を提出します 。申請書には以下の事項を記載する必要があります:
参考)https://www.mof.go.jp/policy/national_property/topics/kisairei.pdf
申請を受けた行政の長は、申請内容を精査し、許可の要件を満たすかの審査を行い、必要な場合は財務大臣への協議を行います 。
使用許可期間は原則として5年以内と定められています 。ただし、財産管理者が当該行政財産の使用状況、個々の利用目的及び投資費用の回収に要する期間を審査した上で、5年以内とすることが実情にそぐわないと認める場合は、法第19条で準用した法第21条又は他の法律の定める期間内において、その必要の程度に応じて定めることができます 。
参考)https://www.mof.go.jp/about_mof/act/kokuji_tsuutatsu/tsuutatsu/TU-19580107-0001-14.htm
使用許可の更新については、必要に応じて原則として一度に限り更新することが可能です 。更新を受けようとするときは、使用期間の満了2月前までに書面をもって部局長に申請しなければなりません 。
参考)https://www.mlit.go.jp/koku/content/001633513.pdf
更新後の使用期間が満了した後も引き続き使用の希望がある場合は、再度公募を実施することになっています 。これは、行政財産の公平な利用機会を確保するための制度設計となっています。
参考)https://www.mod.go.jp/rdb/s-kanto/effort/management/images/kokuyuuzaisanshiyoukyoka_040311.pdf
国有財産法第22条及び第23条は、一定の場合を除いて貸付料を「納付させなければならない」と定めており、これらの条文は同法第19条によって使用許可の場合に準用されています 。使用収益に対する適正な対価として使用料を納付させることが原則となっています 。
参考)https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article1945122/
使用料については、許可申請を受けた行政の長が納付すべき使用料を算定し、期間等の条件を付して許可するか否かの決定を行います 。使用料の性質は、国の財産の適正な対価であり、財政法第9条第1項により「適正な対価なく貸付できない」とされていることに基づいています 。
一定の場合には無償で使用許可できるという条文が別に設けられており(同法第18条第7項)、公共性の高い用途等については使用料の減免が認められる場合があります 。
使用許可は期間満了のほか、一定の事由により取り消される場合があります 。国有財産法第19条によって準用される同法第24条第1項により、「国又は公共団体において公共用、公用又は公益事業の用に供するため必要を生じたとき」には、許可権者は許可を取り消すことができると定められています 。
参考)https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article2163851/
使用許可の取消しに関する重要な判例として、最高裁昭和49年2月5日判決があります 。この判例では、行政財産本来の用途または目的上の必要が生じて使用許可が取り消された場合において、損失補償の要否について判断が示されています 。
参考)https://www.retio.or.jp/wp-content/uploads/2024/12/1690.pdf
取消事由としては以下のような場合があります。
損失補償については、国有財産法第24条第2項が「これに因つて生じた損失」につき補償すべきことを定めていますが、使用権者においてその損失を受忍すべきときは補償を必要とする損失には当たらないと解されています 。
使用許可制度の実務運用において重要な点として、適切な手続きを踏まないと法的問題が発生する可能性があることが挙げられます 。過去には、適切な使用許可がなされておらず、使用料徴収不足があったとして会計検査院が指摘をした事例も存在します 。
判例における重要な動向として、東京地裁平成26年10月14日判決では、国有財産であるA会館の屋上について取材目的でした使用許可申請に対する行政庁の拒否行為に国家賠償法上の違法はないとされた事例があります 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/a5509d80be98e6fd744a8c9d58eadd5a54c0215b
また、使用許可申請の拒否に関する処分性について、裁判所は以下のように判断しています。
参考)https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=15887
実務においては、対象不動産が行政財産でないかを確認することに加え、行政財産だった場合は適切な手続きを踏むことが法的リスク回避のために重要といえます 。
使用許可を受けないまま行政財産を使用収益すると、不法占拠等の法的問題の発生も考えられるため、十分な注意が必要です 。宅建業務においても、取引対象地が国有財産である場合は、使用許可制度への理解と適切な手続きの実施が不可欠となります。