公衆送信権侵害の事例と対策

公衆送信権侵害の事例と対策

公衆送信権とは何か、どのような場合に侵害となるのか、実際の判例事例をもとに解説します。インターネットを利用した著作権侵害が急増する中、企業や個人が知っておくべき法的リスクを詳しく分析しています。被害を受けた場合の対処法や発信者情報開示請求の流れについても紹介。あなたは適切な著作権対策を講じていますか?

公衆送信権侵害の事例

公衆送信権侵害の主な事例
⚖️
ファイル共有ソフト事件

WinnyやBitTorrentを利用した違法な著作物の送信可能化

📱
SNS無断転載事件

TwitterやInstagramでの写真や動画の無許可投稿

🏢
社内イントラネット事件

組織内LANシステムでの新聞記事等の無断共有

公衆送信権のファイル共有ソフト侵害事例

ファイル共有ソフトを利用した公衆送信権侵害は、最も注目される事例の一つです 。WinnyやBitTorrentなどのP2Pファイル共有ソフトでは、利用者が著作物をアップロードし、不特定多数がダウンロード可能な状態に置く行為が送信可能化権の侵害に該当します 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/Winny%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 

Winny事件では、ファイル共有ソフトの開発・提供行為について公衆送信権侵害罪の幇助が争われましたが、最高裁判所は幇助犯の成立を否定しました 。しかし、ソフト自体の利用者については、著作物を無断でアップロードする行為は明確に送信可能化権侵害となります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/05d4d8689bad0d4552503a18b1192b5f6f3442d1

 

BitTorrentを利用した著作権侵害事件では、「P2P FINDER」という検知システムにより発信者の特定が行われています 。2020年から2021年にかけての裁判例では、12件中9件で発信者情報の開示が認められており、権利侵害の明白性が高いことが示されています 。
参考)https://ut-vessel.com/bittorrent/

 

公衆送信権のSNS無断転載侵害事例

ソーシャルメディアにおける無断転載は、現代における公衆送信権侵害の典型的な事例です 。TwitterやInstagramなどのSNSで他人の写真や動画を許可なく投稿する行為は、著作権法第23条第1項に規定される公衆送信権の侵害に該当します 。
参考)https://www.patent.gr.jp/articles/p4449/

 

東京地方裁判所令和3年(ワ)第27488号判決では、ツイッターに投稿された動画による著作権侵害が争点となりました 。裁判所は、投稿動画が「引用」の要件を満たさず、公衆送信権の侵害が明らかであると判断し、発信者情報の開示を認めました。
SNSでの無断転載が「引用」として適法になるためには、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内であることが必要です 。単に出典を明記しただけでは引用の要件を満たさず、依然として著作権侵害となる可能性があります 。
参考)https://izawa-law.com/blog/8694.html

 

公衆送信権の組織内LAN侵害事例

組織内のイントラネットシステムを利用した著作物の共有も、公衆送信権侵害となる場合があります 。社会保険庁のLANシステム掲示板に新聞記事を掲載した事例では、東京地方裁判所が公衆送信権侵害を認定しました 。
参考)https://www.cric.or.jp/qa/shigoto/sigoto11_qa.html

 

イントラネットでの公衆送信権侵害が成立するかどうかは、同一専有構内での送信に該当するかが重要な判断基準となります 。複数の事業所や建物をネットワークで接続するシステムの場合、同一専有構内に限った送信とは認められず、公衆送信権侵害が成立する可能性が高くなります。
参考)https://jrrc.or.jp/240523-2/

 

東京新聞事件では、鉄道会社の社内イントラネットにおける新聞記事の共有について、4つの駅務管理所と1つの乗務管理所を接続するシステムであることから、同一専有構内での送信には該当せず、公衆送信権侵害が認定されました 。

公衆送信権侵害の発信者情報開示請求事例

公衆送信権侵害を受けた著作権者は、プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の開示を請求することができます 。発信者情報開示請求が認められるためには、権利侵害の明白性、正当理由、権利侵害に係る発信者情報であることが要件となります 。
参考)https://chizai-faq.com/2__copyright/9337

 

BitTorrentを利用した著作権侵害事例では、UNCHOKE通信による送信可能化権侵害が争点となることがあります 。知的財産高等裁判所は、送信可能化が継続している状態を示すUNCHOKE通信について、送信可能化権侵害に係る発信者情報に該当するとの判断を示しました 。
参考)https://chosakukenhou.jp/%E3%83%93%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%88%E9%80%81%E4%BF%A1%E5%8F%AF%E8%83%BD%E5%8C%96%E3%81%A7%E7%99%BA%E4%BF%A1%E8%80%85%E6%83%85%E5%A0%B1%E9%96%8B%E7%A4%BA%E3%82%92%E8%AA%8D/

 

発信者情報開示請求では、「P2P FINDER」などの認定システムを利用した場合、IPアドレスの特定方法の信頼性に関する技術的証拠の提出が不要とされています 。これにより、著作権者による権利行使がより容易になっています。

公衆送信権侵害における損害賠償算定事例

公衆送信権侵害における損害賠償の算定は、侵害の規模や態様により大きく異なります 。映画の著作物をインターネット上のサーバにアップロードした事例では、東京地方裁判所が諸事情を総合考慮して40万円の損害賠償を認めました 。
参考)https://www.ip-bengoshi.com/archives/4652

 

著作権侵害事件における損害賠償は、著作権法第114条に基づく損害額の推定規定や、第114条の3に基づく相当なライセンス料相当額での算定が行われます。侵害者の得た利益や著作権者の受けた損害、ライセンス料相当額などが総合的に考慮されます。

 

ファイル共有ソフトを利用した著作権侵害では、数千万円の賠償請求がなされる場合もありますが、実際の示談金額は事案により大幅に異なります 。早期に適切な法的対応を取ることで、損害額を最小限に抑えることが可能です。