
延べ床面積の算出は、建築基準法に基づいて「各階の床面積の合計」として定義されています。この計算式は非常にシンプルで、建物の1階から最上階まで、すべての階層の床面積を足し合わせることで求められます。
具体的な計算式は以下の通りです。
延べ床面積 = 1階床面積 + 2階床面積 + 3階床面積 + ...
例えば、2階建て住宅の場合、1階が50㎡、2階が40㎡であれば、延べ床面積は90㎡となります。マンションやビルなどの集合住宅では、各フロアの床面積をすべて合計して算出します。
重要なのは、この計算において「壁芯面積」を使用することです。壁芯面積とは、壁や柱の中心線で囲まれた範囲の面積を指し、実際の居住可能面積よりも大きくなる特徴があります。これは建築基準法上の統一的な測定方法として採用されており、建物の規模を客観的に評価するための基準となっています。
延べ床面積の算出において、すべての部分が含まれるわけではありません。建築基準法では、特定の条件を満たす部分については床面積に算入しないことが定められています。
算入しない主な部分:
これらの判定基準は、実際の居住や使用に供される空間かどうかを基準としています。特に注意すべきは、バルコニーの扱いです。外壁から2mを超える部分については床面積に算入されるため、設計段階での正確な測定が重要になります。
また、エレベーターシャフトについては、着床しない階の部分は算入されませんが、機械室部分は含まれるなど、細かな規定があります。これらの判定は建築確認申請時に重要な要素となるため、設計者は詳細な基準を把握しておく必要があります。
延べ床面積は容積率の計算において中核的な役割を果たしますが、実は「延べ床面積」と「容積率算定用の延べ床面積」は異なる概念です。この違いを理解することは、不動産従事者にとって極めて重要です。
容積率の基本計算式:
容積率 = 延べ床面積 ÷ 敷地面積 × 100
しかし、容積率算定用の延べ床面積では、以下の部分が緩和対象として除外されます。
容積率算定用延べ床面積 = 延べ床面積 - 容積率緩和部分
この緩和制度により、実際の建物規模よりも容積率上は小さく算定されることがあります。例えば、地下駐車場を設けた住宅では、地下部分の一定割合が容積率計算から除外されるため、より効率的な土地利用が可能になります。
都市計画法に基づく用途地域ごとに容積率の上限が定められており、第一種低層住居専用地域では50%〜200%、商業地域では400%〜1300%など、地域特性に応じた制限が設けられています。
延べ床面積の算出において、壁芯面積の正確な測定は不可欠です。壁芯面積とは、壁や柱の厚みの中心線を基準として測定する面積で、建築基準法上の統一的な測定方法として採用されています。
壁芯面積測定の具体的手順:
注意すべき測定ポイント:
壁芯面積は実際の居住可能面積(内法面積)よりも大きくなります。一般的に、壁厚が150mmの場合、壁芯面積は内法面積の約1.1〜1.15倍程度になることが多いです。この差は建物の構造や壁厚によって変動するため、正確な測定が重要です。
また、RC造とS造では柱の処理方法が異なり、RC造では柱型が壁面から突出することが多いため、測定時には特に注意が必要です。木造住宅では通し柱の処理や、2階床組みの梁成による影響も考慮する必要があります。
延べ床面積の算出において、実務では教科書通りにいかない複雑なケースが多数存在します。特に既存建物の測定や、用途変更を伴う改修工事では、独特の判断が求められることがあります。
実務でよく遭遇する複雑なケース:
1階がRC造、2階が木造の場合、各階で壁厚が異なるため、階ごとに異なる測定基準を適用する必要があります。特に壁芯の位置が階によって変わる場合、正確な測定には高度な技術が必要です。
1階が店舗、2階が住宅の場合、用途ごとに容積率の緩和規定が異なります。住宅部分には住宅用途の緩和が適用されますが、店舗部分には適用されないため、算定時には用途区分を明確にする必要があります。
建築当時は適法だった建物が、法改正により現行法に適合しなくなった場合、延べ床面積の算定方法も変更される可能性があります。特に昭和56年以前の建物では、現在の基準と異なる算定方法が用いられていることがあります。
独自の実務ノウハウ:
登記簿謄本に記載された床面積と、建築確認申請書の床面積が異なるケースが意外に多く存在します。これは登記時の測量方法や、建築後の改修工事による変更が反映されていないことが原因です。不動産取引時には、両方の数値を確認し、必要に応じて現況測量を実施することが重要です。
また、近年増加している太陽光発電設備の設置では、屋上に設置された設備の基礎部分が床面積に算入される場合があります。この判定は設備の規模や設置方法によって異なるため、事前の確認が不可欠です。
さらに、BIM(Building Information Modeling)を活用した設計では、3Dモデルから自動的に床面積を算出する機能がありますが、建築基準法上の算定ルールとは異なる結果が出ることがあります。最終的な確認申請では、必ず手計算による検証を行うことが推奨されます。
将来の法改正への対応:
建築基準法は定期的に改正されており、延べ床面積の算定方法も変更される可能性があります。特に省エネ性能向上や防災機能強化に関連する改正では、新たな緩和規定が設けられることが多く、実務者は常に最新の情報をキャッチアップする必要があります。