最低賃金法第4条第3項と算入しない賃金の理解

最低賃金法第4条第3項と算入しない賃金の理解

最低賃金法第4条第3項により定められた除外賃金の詳細な解説を通じて、企業の適正な賃金計算方法について理解できます。皆さんはこの条項の実務への影響を正しく把握していますか?

最低賃金法第4条第3項と算入しない賃金の規定

最低賃金法第4条第3項の概要
⚖️
除外賃金の基本原則

最低賃金の比較計算から除外される賃金項目について法的枠組みを規定

📊
厚生労働省令への委任

具体的な除外対象賃金を施行規則で詳細に定義し運用の明確化を図る

💼
実務における重要性

適正な賃金計算と法令遵守において企業が理解すべき基本的事項

最低賃金法第4条第3項は、最低賃金との比較計算において算入しない賃金について規定した重要な条項です 。この条項により、使用者が労働者に支払う賃金のうち、特定の性質を持つ賃金については最低賃金の計算対象から除外されることが明確に定められています 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73053000amp;dataType=0amp;pageNo=1

 

本条項は「次に掲げる賃金は、前二項に規定する賃金に算入しない」と規定し、3つの除外カテゴリーを設けています 。これらの除外規定は、最低賃金制度の趣旨に照らして、通常の労働の対価として支払われる基本的な賃金以外のものを対象外とする考え方に基づいています 。
参考)https://hrnote.jp/contents/roumu-rodokijunho-saiteichingin-20230125/

 

第1号では「一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの」を除外対象としています 。これは賞与や一時金など、定期的でない支払いを想定した規定です 。第2号では「通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの」が対象となり、時間外労働や休日労働の割増賃金が該当します 。
参考)https://terashima-kobe.jp/posts/post3.html

 

最低賃金法施行規則第1条による具体的除外賃金

最低賃金法施行規則第1条は、法第4条第3項第1号の具体的な除外対象を明確化しています 。同規則第1項では「臨時に支払われる賃金及び一月をこえる期間ごとに支払われる賃金」を除外賃金として定めています 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73054000amp;dataType=0amp;pageNo=1

 

臨時に支払われる賃金には、結婚手当、出産手当、病気見舞金、災害見舞金などの慶弔手当が含まれます 。これらは労働の対価としてではなく、特別な事情に基づいて支給される性質の賃金であるため、最低賃金の計算から除外されています 。
参考)https://nalevi.mynavi.jp/law/20661/

 

一月を超える期間ごとに支払われる賃金の代表例は賞与です 。賞与は通常、年2回程度の支給であり、労働の成果や会社の業績に応じて支払われる性質が強いため、毎月の基本的な生活費を保障する最低賃金の趣旨とは異なる考慮が必要となります 。
参考)https://saitama-alg.com/roumu/saiteichingin-roukisho-taiou/

 

この除外規定により、企業は賞与や臨時手当を含む総支給額ではなく、基本給や毎月の手当のみで最低賃金との比較を行う必要があります 。実務上は、給与明細書において最低賃金対象賃金と除外賃金を明確に区分することが重要となります 。

最低賃金法施行規則第1条第2項の時間外等割増賃金除外

最低賃金法施行規則第1条第2項は、法第4条第3項第2号に基づき、通常の労働時間以外の労働に対する賃金の除外について詳細に規定しています 。この規定は労働基準法の割増賃金制度との整合性を図る重要な条項です 。
第1号では「所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金」、いわゆる時間外労働割増賃金を除外対象としています 。労働基準法第37条に基づく25%以上の割増賃金部分だけでなく、所定労働時間を超える労働に対する基本部分も含めて除外されます 。
第2号の「所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金」は、休日労働に対する賃金を指します 。法定休日労働に対する35%割増賃金はもちろん、法定外休日(所定休日)での労働に対する賃金も除外対象となります 。
第3号では深夜労働割増賃金について規定し、「午後十時から午前五時まで(特定地域では午後十一時から午前六時まで)の間の労働に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額をこえる部分」を除外しています 。これは労働基準法第37条第4項の深夜労働25%割増部分のみが除外対象であり、深夜時間帯の基本賃金部分は最低賃金の計算に含まれることを意味します 。

最低賃金法施行規則第1条第3項の特定手当除外規定

最低賃金法施行規則第1条第3項は、労働者の個人的事情や労働と直接関係しない事情に基づいて支払われる手当について除外規定を設けています 。この規定は昭和34年の制定当初から設けられており、最低賃金制度の基本的な考え方を反映しています 。
精皆勤手当は、労働者の出勤状況という個人的な勤務態度に基づいて支給される手当であり、労働の質や量とは別の要素で決定されるため除外対象となっています 。皆勤手当、精勤手当、勤怠手当など名称の如何を問わず、出勤状況に応じて支給される手当は全て該当します 。
通勤手当は、労働者の居住地と勤務地の距離という個人的事情に基づいて支給される実費弁償的な性格の手当です 。交通費の実費相当額だけでなく、定額で支給される通勤手当も除外対象となります 。ただし、通勤手当という名目であっても、実質的に基本給の一部として支給されている場合は、個別に判断が必要となります 。
家族手当は、労働者の扶養家族数という労働とは無関係な個人的事情に基づいて支給される手当です 。配偶者手当、子ども手当、扶養手当など名称は問わず、家族構成に応じて支給される手当は全て除外されます 。近年は働き方改革の観点から家族手当を廃止する企業も増えていますが、支給している場合は確実に除外計算が必要です 。

最低賃金法第4条第3項第3号の最低賃金別途除外規定

最低賃金法第4条第3項第3号は「当該最低賃金において算入しないことを定める賃金」について規定しており、地域別最低賃金や特定最低賃金において個別に除外対象を設定できる条項です 。この規定は最低賃金制度の柔軟性を確保するための重要な仕組みです 。
参考)https://hourei.net/law/334AC0000000137

 

地域別最低賃金は都道府県ごとに決定されますが、地域の産業構造や労働事情を考慮して、標準的な除外賃金以外にも特定の手当を除外対象とする場合があります 。例えば、地域特有の手当や業界慣行に基づく手当について、各都道府県の最低賃金審議会の議論を経て除外対象に追加することが可能です 。
特定最低賃金(産業別最低賃金)においては、業界の特殊性を反映した除外規定を設けることができます 。製造業では技能手当、サービス業では接客手当など、業界特有の手当について最低賃金との比較計算から除外することで、より実態に即した最低賃金制度の運用が可能となります 。
この規定により、全国一律の除外基準では対応できない地域性や業界特性を反映した最低賃金制度の運用が実現されています 。企業は自社が適用される最低賃金の除外規定を正確に把握し、適切な賃金計算を行う必要があります 。実務上は、労働基準監督署や最低賃金審議会の資料を定期的に確認し、除外対象の変更に注意を払うことが重要です 。

最低賃金法第4条第3項の宅建実務への影響と留意点

不動産業界において最低賃金法第4条第3項の理解は、従業員の労働条件管理や法的リスク回避の観点から極めて重要です 。宅地建物取引業では、営業成績に応じた歩合給や成約手当などの変動給与を支払う場合が多く、これらの取扱いについて正確な理解が必要となります 。
宅建業で一般的な成約手当や契約手当は、臨時的な性格が強い場合は除外対象となる可能性がありますが、毎月継続的に支払われる場合は最低賃金の計算に含める必要があります 。歩合給についても、労働の対価として定期的に支払われる性格のものは基本的に最低賃金の対象となり、歩合給を含めた総額が最低賃金を上回っているかの確認が必要です 。
不動産仲介業では外勤営業が多く、交通費や営業活動費として支給される手当の取扱いが問題となることがあります 。実際の交通費相当額として支給される通勤手当は除外対象ですが、営業活動のための交通費として定額支給される手当は、実質的に基本給の一部とみなされる場合があります 。このような境界線の判断は、支給の実態や社内規定の内容を総合的に検討して行う必要があります 。
宅建業者は宅地建物取引業法による業務規制に加えて、労働基準法や最低賃金法の遵守も求められます 。特に最低賃金法違反は行政処分の対象となるだけでなく、宅建業法上の監督処分事由にも該当する可能性があるため、人事労務管理において慎重な対応が必要です 。定期的な賃金台帳の点検や、労働基準監督署による調査への適切な対応体制の整備が、事業継続のリスクマネジメントとして重要となります 。