

生産緑地法は、1974年(昭和49年)に制定された法律で、急激な都市化の進行により農地が減少する中、市街化区域内の農地を計画的に保全することを目的としています 。法律の第一条では「生産緑地地区に関する都市計画に関し必要な事項を定めることにより、農林漁業との調整を図りつつ、良好な都市環境の形成に資することを目的とする」と明記されています 。
参考)https://iqrafudosan.com/channel/production-green-land-law
1992年の改正により、三大都市圏特定市では市街化区域内農地に対する宅地並み課税が導入され、多くの農地所有者が生産緑地指定を選択することになりました 。この制度により、農業を継続したい農家は税制上の優遇を受けながら長期間にわたり農地を維持できるようになっています 。
参考)https://www.zeirisi.co.jp/souzoku-nouchi/productive-green-2022/
生産緑地制度は都市住民への新鮮な野菜供給、防災機能、景観形成、環境保全など多様な機能を有しており、都市部において貴重な緑地として位置づけられています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/reportscpij/19/2/19_174/_article/-char/ja/
生産緑地地区に指定されるためには、現に農林漁業の用に供されている農地等で以下の要件を満たす必要があります 。第一に、良好な生活環境の確保に相当の効果があり、公共施設等の敷地に供する用地として適していることが求められます 。
参考)https://www.city.ikeda.osaka.jp/soshiki/machidukurikankyo/toshiseisaku/toshikeikaku/1529030916750.html
面積要件については、2017年の生産緑地法改正により、従来の500平方メートル以上から、市町村が条例により300平方メートル以上まで引き下げることが可能となりました 。これにより、より小規模な農地でも生産緑地指定を受けられるようになり、都市農地の保全範囲が拡大されています 。
参考)https://www.athome.co.jp/contents/for-buyers/buyers-kiso/production-green-space/
第三の要件として、農林漁業の継続が可能な条件を備えていることが必要で、農業用排水施設の整備状況などが都道府県知事との協議や都市計画審議会の調査・審議を経て判断されます 。これらの条件をすべて満たした農地について、市町村が都市計画で生産緑地地区として指定します 。
生産緑地に指定された農地には、大幅な税制優遇措置が適用されます 。固定資産税については、一般市街化区域内農地が数万円、特定市街化区域内農地が数十万円であるのに対し、生産緑地は数千円と大幅に軽減されています 。
参考)https://legacy.ne.jp/knowledge/now/souzoku/639-seisanryokuchi-merit-shiteikaijyo-jyouken-kaisetsu/
評価方法においても、生産緑地以外の市街化区域内農地は宅地並み評価となりますが、生産緑地は一般農地と同様に農地評価が適用されます 。三大都市圏の特定市においても、生産緑地は農地課税が継続され、営農者の税負担が大幅に軽減されています 。
参考)https://www.sekisuihouse.co.jp/shm-keiei/asset_guide/tax_courses/urban-farmland2/
相続税についても、農業相続人が農業を継続することを条件に、農地等に係る相続税の納税を猶予し、さらに農業を20年間継続した場合には猶予された相続税が免除される制度が適用されます 。これらの税制措置により、都市部での農業経営の継続が可能となっています 。
参考)https://www.kaku-ichi.co.jp/media/tips/legal-system/background-of-the-productive-green-space-system
生産緑地地区内では、農地等としての利用が義務付けられ、原則として30年間は農地等から宅地転用ができません 。建物建築や宅地造成をする場合は市町村長の許可が必要となり、厳格な行為制限が設けられています 。
参考)https://www.tokyo-takken.or.jp/re-port/78459
2017年の生産緑地法改正により、営農継続の観点から建築規制が一部緩和され、農業者の収益性を高める施設として直売所や農家レストラン等の設置が可能となりました 。これらの施設は、地域内農作物を主たる原材料とする製造・加工施設、地域内農作物の物販店舗、地域内農作物を主たる材料とする料理提供施設に限定されています 。
参考)https://premier-home.jp/ryokuchi/2017kaisei/
ただし、2025年5月1日から生産緑地法施行令の改正により、休憩所・加工工場・直売所・農家レストラン等の施設の設置・管理に係る行為についても市町村長の許可が必要となりました 。単なるスーパーやファミレス等の生産緑地保全に無関係な施設の立地を防ぐため、施設規模や残存農地面積などの基準が省令で設けられています 。
参考)https://www.city.sayama.saitama.jp/shisei/shisaku/tosikeikaku/seisanryokuchi/seisanryokuttihou.html
生産緑地は通常30年間の営農継続が義務付けられていますが、特定の条件に該当した場合は、市町村に対して買取申出を行うことができます 。買取申出が可能となる条件は、指定後30年経過、土地所有者の死亡、身体的事情により営農継続が困難と行政に認められた場合の3つです 。
参考)https://www.inoue-fudousan.co.jp/blog/entry-654782/
買取申出の手続きでは、まず市町村の担当部署に申請し、生産緑地買取申出書、申出地の位置図および区域図、印鑑証明、土地登記簿謄本と公図、同意書や農業従事者証明などの書類提出が必要です 。市町村は申請から1か月以内に買取の可否を通知し、買い取らない場合は他の農業関係者への売買斡旋を行います 。
参考)https://www.aeonhousing.com/blog/entry-585172/
買取申出から3か月以内に斡旋が成立しなかった場合には生産緑地の指定が解除され、自由売買が認められるようになります 。指定解除後は固定資産税が宅地並み課税となり、5年間の激変緩和措置適用後に完全な宅地並み課税に移行します 。
生産緑地の2022年問題とは、1992年の生産緑地法改正時に指定を受けた生産緑地の約8割が、30年を経過する2022年に一斉に指定解除される可能性があった問題です 。三大都市圏の特定市の生産緑地約1万3千ヘクタールのうち、約8割がこの時期に買取申出の対象となることから、不動産市場の混乱や都市環境の悪化が懸念されていました 。
参考)https://house.home4u.jp/contents/house-17-4476
この問題への対策として、2017年の生産緑地法改正により特定生産緑地制度が創設されました 。特定生産緑地に指定されると、買取申出期間を10年延伸でき、10年ごとの更新も可能となります 。固定資産税・都市計画税は引き続き農地評価が適用され、相続税納税猶予制度も継続されます 。
参考)https://www.city.asaka.lg.jp/soshiki/52/specific-productive-green-district.html
実際には、特定生産緑地制度の創設や農地所有者の営農継続意向により、予想されたような大規模な地価暴落は発生せず、2022年問題は比較的安定的に推移しました 。特定生産緑地を選択しなかった場合は段階的に税額が増加し、5年後にはほぼ宅地並み課税となるため、多くの農地所有者が特定生産緑地指定を選択しています 。
参考)https://gro-bels.co.jp/labo/productive-green-space-problem/