
種類債権とは、一定の種類に属する物の一定量の引渡しを目的とする債権を指します。たとえば「米10kg」「同じ規格の機械部品100個」といった債権が種類債権の典型例です。特定物債権と異なり、種類債権では具体的にどの物を引き渡すかは契約締結時点では確定していません。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E5%82%B5%E6%A8%A9
種類債権の特定とは、種類債権の目的物が具体的な特定物に確定することを意味します。この特定により、種類債権は特定物債権へと性質を変化させ、重要な法的効果が生じることになります。
参考)https://tek-law.jp/civil-code/claims/general-provisions/subject-matter-of-claim/article-401/
特定の方法については民法401条2項が明確に規定しており、❶債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了した場合、❷債権者の同意を得て給付すべき物を指定した場合に特定が生じます。これらの法定の特定方法以外にも、当事者の合意による特定も可能とされています。
参考)https://forjurist.com/first-civil-law4-2/
種類債権の特定により最も重要な効果の一つが、債務者に対する善良な管理者の注意義務(善管注意義務)の発生です。民法400条により、債権の目的が特定物の引渡しとなった場合、債務者はその引渡しをするまで善良な管理者の注意をもってその物を保存しなければなりません。
参考)https://www.sumigama-law.jp/15910255890789
善管注意義務の内容は、「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる」とされ、債務者の職業や社会的地位に応じて要求される客観的な注意基準となります。これは「自己の財産に対するのと同一の注意」よりも厳格な義務であり、取引通念上要求される十分な注意をしなければなりません。
参考)https://tek-law.jp/civil-code/claims/general-provisions/subject-matter-of-claim/article-400/
債務者がこの善管注意義務に違反して目的物を滅失・毀損させた場合、損害賠償責任を負うことになります。特に不動産取引においては、建物の管理や維持保全について専門的な注意が求められるため、この義務の重要性が高まります。
参考)https://ja.wikibooks.org/wiki/%E6%B0%91%E6%B3%95%E7%AC%AC400%E6%9D%A1
種類債権の特定により生じる重要な効果として、履行不能の可能性の発生があります。特定前の種類債権では、目的物に代替性があるため原則として履行不能は生じません。しかし、特定後は具体的な特定物を引き渡す義務となるため、その特定物が滅失等した場合には履行不能となります。
参考)https://www.yuhikaku.co.jp/static_files/23335_web09.pdf
この履行不能の成立時期は特定時期と密接に関連しています。持参債務の場合、「物の給付をするのに必要な行為を完了」するのは債権者の住所で現実に履行の提供をしたときとされており、運送中の滅失では履行不能にならない場合があります。
制限種類債権の場合には、特別な考慮が必要です。制限された範囲内の物が全部滅失した場合、目的物の特定がなされていなくても、債務者に他の物の調達義務はなく、債務は履行不能になると解されています。これは一般的な種類債権とは異なる取扱いとなります。
参考)https://www.tatsumi.co.jp/stream/documents/shishido_matsunaga_18052606-2.pdf
種類債権の特定により、目的物に関する危険(滅失・毀損のリスク)の負担が債権者に移転するという重要な効果が生じます。民法534条2項により、債務者の責に帰すべき事由によらない目的物の滅失・毀損については、債権者が危険を負担することになります。
参考)https://ocw.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2021/04/2003_minopu-3_02.pdf
また、売買契約においては、特定時に所有権が債務者(売主)から債権者(買主)に移転するのが原則です。この所有権移転により、買主は目的物に対する所有者としての権利と責任を負うことになり、第三者に対する対抗力も取得します。
参考)https://www.tatsumi.co.jp/stream/documents/080805_rora_kaisetu.pdf
実務的には、不動産の売買契約において種類債権の特定時期の判断が重要となるケースがあります。建売住宅の販売などでは、どの時点で特定の建物が買主に帰属することになるかにより、建物の滅失リスクや修繕義務の負担者が変わってくるためです。
宅地建物取引において種類債権の特定に関する実務上の重要な留意点がいくつかあります。まず、建売住宅や分譲マンションの販売では、契約締結時と引渡時の間に相当期間がある場合、どの時点で特定が生じるかを明確にしておく必要があります。
契約書においては、特定の方法と時期を明記することが重要です。たとえば「売主が買主に物件の完成を通知した時」「買主が現地確認を行った時」といった具体的な特定時期の合意をしておくことで、後日のトラブルを防止できます。
また、特定前後での債務者の義務の変化についても、当事者間で十分な理解を共有しておく必要があります。特定前は調達義務があるため代替物での履行が可能ですが、特定後は善管注意義務の下で特定物の保存義務を負い、その物の引渡しのみが適正な履行となります。
さらに、火災保険や損害保険の加入時期についても、特定時期との関係で検討する必要があります。危険負担の移転時期を考慮して、適切な時期に保険関係を調整することが実務上重要な配慮事項となります。