
担保責任とは、売買契約において引き渡された目的物が契約内容に適合しない場合に売主が負う責任の総称です 。この概念は不動産取引を含むあらゆる売買契約の基盤となっており、買主保護の重要な制度として機能しています。
参考)https://www.businesslawyers.jp/practices/1049
民法改正前は、担保責任の中でも特に「瑕疵担保責任」が特定物売買において重要な役割を果たしていました 。瑕疵担保責任は、特定物に「隠れた瑕疵」があった場合に売主が負う責任として規定されており、法定責任説に基づく特別な責任制度でした 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/15732fbc3221f4d3b3c7e84c129b87dbcd1b7523
2020年4月の民法改正により、従来の瑕疵担保責任は廃止され、「契約不適合責任」という新しい制度に統一されました 。この改正により、担保責任の法的性質は債務不履行責任の一種として整理され、より包括的で分かりやすい制度となっています 。
参考)https://www.zennichi.net/fureai/pdf/84/4.pdf
国土交通省の民法改正に関する解説資料:請負契約における担保責任の変更点について詳細な説明
旧民法における瑕疵担保責任は、特定物の売買契約において「隠れた瑕疵」がある場合に限定して適用される制度でした 。隠れた瑕疵とは、売買契約締結時に買主が知らず、かつ知らないことについて過失がない瑕疵を指し、買主の善意無過失が要求されていました 。
参考)https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/AA1203413X-20060815-0395.pdf?file_id=14512
対象物については、特定物(世界に一つしかない個性のある物)に限定されており、不特定物には適用されませんでした 。この制限により、同種の物が多数存在する商品については異なる責任体系が適用されるという複雑な状況が生じていました 。
参考)https://realestate.darwin-law.jp/topic/723/
瑕疵担保責任の法的性質については、法定責任説が通説的見解でした 。この立場では、売主は目的物をそのまま引き渡せば債務履行として十分であり、瑕疵担保責任は法が特に認めた責任とされていました 。そのため、売主に故意や過失がなくても責任を負う無過失責任とされ、損害賠償の範囲も信頼利益に限定されていました 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/62fcf9bccabdb2bec7cd72aac9b7235f348d19cc
慶應義塾大学の研究論文:瑕疵担保責任における「隠れた」瑕疵と買主の善意無過失について
瑕疵担保責任の法的性質をめぐっては、学説上「法定責任説」と「契約責任説」の対立がありました 。法定責任説は、特定物売買では売主は目的物をそのまま引き渡せば債務の履行として足りるところ、瑕疵担保責任は債務不履行責任とは別に法が特に定めた責任であるとする見解です 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/e5293b95083666b30a1b929b8fa0cd1cc66f2982
一方、契約責任説は、売主は瑕疵のない目的物を引き渡す義務を負っており、目的物に瑕疵がある場合は債務不履行となるため、瑕疵担保責任は売買における債務不履行の特則であるとする見解でした 。この立場では、買主は解除や損害賠償だけでなく、追完請求や代金減額請求も可能とされ、損害の範囲も履行利益にまで及ぶとされました 。
参考)https://www.corporate-legal.jp/matomes/5573
改正前民法下では法定責任説が有力でしたが、契約責任説の影響により実務では柔軟な運用がなされていました 。特に、買主の過失判断において、専門業者である売主と同様の注意を買主に要求することの不合理性が指摘され、不動産取引においては買主の善意無過失が広く認定される傾向にありました 。
2020年の民法改正により、従来の複雑な担保責任制度は「契約不適合責任」に統一され、担保責任の考え方が大きく変わりました 。新制度では、引き渡された目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」である場合に売主が責任を負うこととなり、特定物・不特定物の区別なく適用されるようになりました 。
参考)https://www.vbest.jp/kenchikusosho/columns/8610/
契約不適合責任では、買主の善意無過失は不要となり、売主の故意・過失が損害賠償の要件として必要になりました 。また、買主の救済手段として、従来の解除・損害賠償に加えて、履行の追完請求と代金減額請求が新たに認められ、損害賠償の範囲も履行利益まで拡大されました 。
参考)https://www.mecyes.co.jp/taqsie/master/defect-liability
期間制限についても変更があり、従来は「瑕疵を知った時から1年以内の責任追及」が必要でしたが、改正後は「不適合を知った時から1年以内の通知」で足りることとなりました 。この変更により、買主にとってより利用しやすい制度となっています 。
参考)https://www.saitama-bengoshi.com/oyakudachi/20240725-16/
ビジネスロイヤーズの詳細解説:契約不適合責任と瑕疵担保責任の違いについて実務的観点から
担保責任制度は、占有改定を伴う取引においても重要な意味を持ちます 。占有改定とは、所有者が物を他人に譲渡しながらも、譲渡者が引き続きその物を占有し続ける法的手法です 。この手法は譲渡担保や所有権留保といった非典型担保において頻繁に活用されています。
参考)https://keiyaku-watch.jp/media/hourei/senyu-kaitei/
占有改定による取引では、目的物の実際の状態確認が困難になりがちで、担保責任の問題が複雑化する傾向があります 。特に、動産譲渡担保において占有改定が行われる場合、外形に変化が生じないため、先行する担保権の存在や目的物の瑕疵の発見が困難になる課題があります 。
参考)https://www.shojihomu.or.jp/public/library/1168/0302kenkyukai-siryou27com.pdf
このような状況下では、契約不適合責任の通知義務がより重要となります。占有改定により譲渡担保権者が実際の占有を取得していない場合でも、契約内容に適合しない状態が判明した時点から1年以内に通知を行うことで、適切な責任追及が可能となります 。実務では、占有改定を含む契約書において担保責任に関する特約を明確に定めることが重要とされています。
参考)https://kigyobengo.com/media/useful/1618.html