

展示権は著作権法第25条に規定された著作財産権の一種で、「美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物をこれらの原作品により公に展示する権利」を著作者が専有する権利です 。
参考)https://seo-sem.co.jp/contents/iprchitekizaisan/chosakuken/zaisan/tenji.html
この権利の最大の特徴は、対象が限定的であることです。美術の著作物(絵画、彫刻、工芸品など)については公表・未公表を問わず展示権が認められますが、写真の著作物については未発行のもののみが対象となります 。
参考)https://kai-law.jp/intellectual-property-right/art-copyrights/
写真の展示権が未発行のものに限定される理由は、写真の特殊性にあります。写真はネガから何枚でも複製可能であり、どれが「原作品」なのかの特定が困難なため、まだ誰にも発表・発行していないプリントアウトした作品のみを原作品として扱っているのです 。
展示権は「原作品により」という限定があるため、複製物やレプリカの展示には適用されません 。これは美術作品の独創性と希少性を保護するという目的があります。
参考)https://chosakukenhou.jp/exhibition_rights/
公表権は著作権法第18条に規定された著作者人格権の一種で、「著作物でまだ公表していないものを公衆に公表するかどうか、また、どのように公表するかを決める権利」です 。
参考)https://keiyaku-watch.jp/media/kisochishiki/chosakusya-jinkakuken/
公表権の対象は極めて広範囲で、すべての種類の著作物の未公表作品が含まれます。小説、詩、音楽、映画、絵画、写真など、著作権法が保護するあらゆる著作物について、著作者が公表の可否と方法を決定する権利を持ちます 。
参考)https://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime2.html
公表権は著作者の人格的利益を保護するための権利であり、著作者の一身に専属するため譲渡することはできません 。これは著作者の名誉や感情を害することを防ぐという重要な意義があります。
参考)https://www.kakeru-law.jp/lawblog/4856/
一度著作者の意思によって公表された著作物は、公表権の保護対象から外れます。つまり、すでに公表された作品について、再度公表権が働くことはありません 。
参考)https://www.saitama-bengoshi.com/oyakudachi/20221226-2/
展示権と公表権は密接な関係にあり、特に未公表の美術作品や写真作品において両権利が複雑に絡み合います。
未公表の美術作品が売買・譲渡された場合、公表権については「同意した」とみなされる特例があります。つまり、作品を手に入れた所有者は公表する権利の同意を得たものとして扱われ、展示することも可能になります 。
しかし、この関係は一方向的なものです。展示権が認められる場合でも、自動的に公表権の同意があったとみなされるわけではなく、個別の検討が必要です。特に、著作者が展示を想定していない形での公表については、公表権侵害となる可能性があります。
美術の著作物の原作品所有者は、著作権法第45条により著作者の許諾なしに公に展示することができますが、これは展示権の制限規定であり、公表権を自動的に行使できることを意味するものではありません 。
参考)http://copyright.watson.jp/title.shtml
展示権の特徴的な制度として、著作権法第45条の「原作品所有者による展示」規定があります。これは美術の著作物や写真の著作物の原作品の所有者またはその同意を得た者が、原作品を公に展示できるとするものです 。
参考)http://shou-law.com/?p=692
この規定により、美術館やギャラリーなどでの展示が円滑に行われるよう配慮されています。ただし、重要な例外として、「一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置する場合」は除外されています 。
参考)https://onion-tmip.net/update/?p=2909
例えば、公園の彫刻や建物の外壁のアート作品を恒常的に設置する場合は、原作品所有者であっても著作者の展示権を侵害することになります。これは街の景観に大きな影響を与える屋外アートについて、著作者の意図を重視するためです 。
写真の著作物については、屋外への恒常展示でも制限規定の対象外となっており、原作品所有者の権利がより広く認められています 。
宅建業務においても関連する可能性がある実務的な注意点として、ホテルロビーや商業施設での美術品展示があります。これらの場所は「公衆」に該当するため、適切な権利処理が必要です 。
参考)https://note.com/chosakuken/n/n699ae9b2c6c6
展示権については、原作品による展示のみが対象となるため、複製品やプリント作品の展示は展示権の範囲外です。しかし、他の著作権(複製権など)や公表権の問題が生じる可能性があることに注意が必要です 。
参考)https://note.com/copyrights/n/n8767f26f15ee
公表権については、著作者の死後も一定の保護が続きます。著作権法第60条により、著作者が存在していたならば人格権侵害となるような行為は、死後においても禁止されています 。
また、二次的著作物の場合は更に複雑になります。翻訳や編曲などの二次的著作物については、原著作物の著作者と二次的著作物の著作者の両方の権利処理が必要になる場合があります。これは展示権や公表権についても同様で、慎重な検討が求められます。
契約実務においては、「買取り」という表現だけでは著作権譲渡の意思が明確でない場合があります。展示権や公表権を含む著作権の譲渡を意図する場合は、契約書に明確な条項を設ける必要があります 。