特例措置インフレスライド違いの完全解説

特例措置インフレスライド違いの完全解説

建設工事における特例措置とインフレスライドの違いを詳しく解説し、不動産業界の実務において正しく理解すべき重要なポイントを明確にします。実務者に必要な知識とは何でしょうか?

特例措置とインフレスライドの違い

特例措置とインフレスライドの基本概要
📋
特例措置の特徴

新労務単価適用後の契約で旧単価を使用した場合の価格調整制度

📈
インフレスライドの特徴

契約後の急激な物価変動に対応する価格変更請求制度

⚖️
負担割合の違い

特例措置は発注者全額負担、インフレスライドは受注者1%負担

特例措置の基本概念と適用条件

特例措置は、新労務単価の適用開始後に契約を締結した工事において、旧労務単価を用いて積算された契約を新労務単価に変更する制度です。この制度の核心は「適正な価格での契約締結」と「建設労働者への適切な賃金確保」にあります。
適用対象となるのは、令和7年3月1日以降に契約を締結した工事及び委託業務のうち、旧労務単価等を適用して積算した契約です。発注者は受注者からの協議請求があった場合、必ず請負代金額の変更協議を行う義務があります。
特例措置の重要な特徴 🔍

  • 受注者の負担は一切発生しない
  • 発注者が変更増額を全額負担する
  • 設計業務委託等技術者単価にも適用される
  • 契約後の積算単価と実際の労務単価の差額を完全に補償

この制度により、契約締結のタイミングによる不公平を解消し、建設業界における適正な労働対価の確保を図っています。特に不動産開発プロジェクトにおいて、工期の長期化が予想される案件では、労務単価の変動リスクを適切に管理することが重要です。

 

インフレスライドの仕組みと計算方法

インフレスライドは、建設工事において日本国内で急激なインフレが発生し、契約金額が著しく不適当となった場合に適用される価格変更制度です。この制度は契約締結後の予期しない経済状況の変化に対応するセーフティネットとしての役割を果たします。
適用条件と対象範囲 📊

  • 対象工事:基準日以前に契約締結し、工期が2ヵ月以上残っている工事
  • 変更対象:基準日以降の残工事分の資材、労務等
  • 適用基準:労務単価と資材価格の変動額が対象工事費の1%を超える場合

計算式は以下の通りです。
S=[②-①-(①×1%)]

  • S:増額スライド額
  • ①:残工事費
  • ②:変動後の労務単価・資材単価で算出した①に相当する額

例えば、残工事費5,000万円の工事が新年度単価で5,150万円になる場合、増額は100万円(5,150万円-5,000万円-50万円)となります。この1%の受注者負担は、軽微な価格変動に対するリスク分担の考え方に基づいています。
インフレスライドは再適用が可能で、工事期間中に複数回の物価変動があった場合にも対応できる柔軟性を持っています。不動産業界では、大規模開発プロジェクトの工期が長期にわたることが多いため、この制度の理解は事業リスク管理の観点から極めて重要です。

 

特例措置とインフレスライドの契約時期による使い分け

両制度の最も重要な違いは契約締結時期による適用の分かれ目にあります。この時期的な区分は、建設業界における価格変動リスクの公平な分担を目的としています。
契約時期による制度適用の区分 📅
令和7年3月1日を境界として。

  • 3月1日以降の契約:特例措置が適用対象
  • 2月28日以前の契約:インフレスライドが適用対象

この1日の差が受注者の負担に大きな影響を与えます。1億円の工事では1%でも100万円の負担差となり、企業の収益性に直接影響します。
実務における注意点 ⚠️

  • 積算時期と契約時期の不一致による混乱
  • 発注者の通知義務と受注者の請求権
  • 工期延長に伴う制度適用範囲の変化
  • 部分払いと出来高管理の重要性

不動産開発において、設計変更や追加工事が発生した場合の取扱いも重要です。当初契約が特例措置対象でも、変更契約がインフレスライド対象となる可能性があり、契約管理の複雑さが増します。

 

プロジェクトマネジメントの観点から、契約締結スケジュールの最適化と価格変動リスクの適切な分散配置が求められます。特に大規模な複合開発では、複数の工事契約が異なる時期に締結されるため、制度適用の混在が生じる可能性があります。

 

特例措置における発注者の責任と受注者の権利

特例措置において、発注者は単なる価格調整の当事者ではなく、建設業界の健全な発展を支える責任主体としての役割を担います。この制度設計の背景には、適正な労働対価の確保と業界全体の持続可能性の向上があります。
発注者の主要な義務 🏢

  • 受注者からの協議請求への誠実な対応義務
  • 変更増額の全額負担
  • 適用可能性の積極的な通知
  • 迅速な変更契約手続きの実施

発注者は特例措置の適用が請求可能となった場合、受注者に対して能動的に通知する責任があります。この通知義務は、情報の非対称性を解消し、制度の実効性を確保するための重要な仕組みです。
受注者の権利と請求手続き 👷‍♂️
受注者は新労務単価に基づく請負代金額への変更協議を請求する権利を有します。この権利行使において重要なのは、適切なタイミングでの請求と必要書類の準備です。
請求に必要な主要書類。

  • 旧労務単価による積算根拠
  • 新労務単価との差額計算書
  • 工程表と施工予定の詳細
  • 変更対象工事の範囲明示書

不動産開発プロジェクトでは、複数の専門工事業者が参画するため、発注者は各受注者の請求権を適切に管理し、公平な制度適用を確保する必要があります。また、元請・下請関係においても、この制度の利益が適切に還元される仕組みの構築が重要です。

 

インフレスライドの実務運用と計算実例

インフレスライドの実務運用において最も重要なのは、基準日の設定と残工事の正確な把握です。基準日は受注者がスライド協議を請求した日を基本とし、この日以降の施工分が変更対象となります。
具体的な計算実例 💰
残工事費1億円のプロジェクトで、新労務単価適用により1億500万円となる場合。

  • 変動額:500万円
  • 受注者負担(1%):100万円
  • 実際の増額:400万円

この1%の受注者負担は、軽微な価格変動に対する正常な事業リスクとして設定されています。建設業界における価格変動は一定程度予測可能であり、完全な価格保証は市場機能を阻害する可能性があるためです。

 

出来高管理と適用範囲の確定 📋

  • 基準日時点での施工済部分:対象外
  • 基準日時点での現場搬入済工事材料:対象外
  • 基準日以降に施工する部分:対象
  • 基準日以降に購入する資機材:対象

不動産開発では、杭工事、躯体工事、仕上工事など工種ごとに進捗が異なるため、出来高の正確な把握が制度適用の前提となります。特に、資材の事前調達が多い工事では、搬入時期の管理が重要です。

 

再スライドの可能性 🔄
インフレスライドは再適用が可能で、工事期間中に複数回の適用を受けることができます。これは長期にわたる大規模プロジェクトにおいて、継続的な価格変動リスクに対応するための制度設計です。
ただし、再スライドの都度、1%の受注者負担が発生するため、頻繁な適用は受注者の収益を圧迫する可能性があります。プロジェクトマネジメントの観点から、価格変動の予測と適用タイミングの最適化が求められます。