
都市計画における「調整区域」と「市街化調整区域」という用語は、しばしば混同されがちですが、実は同じものを指しています。正確には「市街化調整区域」が正式名称です。
市街化調整区域とは、都市計画法第7条第3項に基づき、「無秩序な市街化を防止し、計画的な市街化を図るため必要があるときに定める区域区分のうち、市街化を抑制すべき区域」として定められています。この制度は1968年(昭和43年)の都市計画法制定時に導入されました。
高度経済成長期に急速に進んだ郊外への無秩序な市街地拡大(スプロール現象)を抑制し、計画的な都市開発を進めるために設けられた区域区分制度の一部です。この区域区分制度によって、都市計画区域は「市街化区域」と「市街化調整区域」に分けられることになりました。
市街化調整区域の指定は、各都道府県知事が行い、都道府県を跨ぐ場合は国土交通大臣が決定します。一方、用途地域や地区計画といった地域的な事項は市町村での決定となります。
市街化区域と市街化調整区域は、都市計画における対照的な性格を持つ区域です。それぞれの特徴を比較してみましょう。
【市街化区域の特徴】
【市街化調整区域の特徴】
両者の最も大きな違いは、市街化区域では原則として自由に建築行為ができるのに対し、市街化調整区域では原則として建築行為が制限されるという点です。市街化調整区域では、都道府県知事の許可がなければ、開発行為や建築行為を行うことができません。
市街化調整区域内で建築行為を行うためには、原則として都道府県知事の許可が必要です。ただし、以下のような場合は建築許可が不要となります。
【建築許可が不要な主なケース】
一方、建築許可が必要な場合は、都市計画法第36条に定められている以下のような条件を満たす必要があります。
【建築許可の主な条件】
建築許可の申請手続きは、各自治体の開発許可担当部署で行います。申請には、開発許可申請書、設計図書、位置図、現況図、公図の写し、土地の登記事項証明書などの書類が必要となります。
また、もともと農地だった土地を宅地に転用する場合は、建築許可と同時に農地転用許可も必要になります。これは農地法に基づく手続きで、農業委員会を通じて申請します。
市街化調整区域では建築行為が制限されるため、土地活用にも様々な制限があります。しかし、その特性を活かした活用方法もあります。
【市街化調整区域での主な土地活用方法】
市街化調整区域の土地を所有することには、以下のようなメリットとデメリットがあります。
【メリット】
【デメリット】
市街化調整区域の土地活用を検討する際は、各自治体の条例や運用基準を確認することが重要です。自治体によっては、条例で市街化調整区域でも開発を認めている地域(いわゆる「34条11号区域」や「既存宅地制度」の適用区域など)もあります。
近年、都市農地の位置づけが大きく変わり、2017年の都市緑地法等の改正により「田園住居地域」という新たな用途地域が創設されました。これは、農地と低層住宅が一体となって良好な住環境を形成している地域を対象としたものです。
田園住居地域は、市街化区域内の農地を「都市にあるべきもの」と位置づけ、住宅と農地が混在し、両者が調和して良好な居住環境と営農環境を形成している地域を保全するための制度です。
この制度により、市街化調整区域内の一部地域においても、農業と住宅が共存する新たな土地利用の可能性が広がっています。田園住居地域では、都市農業を営むために必要な施設の立地を可能とする建築規制や、農地の区域における面的開発をコントロールする開発規制が設けられています。
また、2020年度の税制改正では、農地保全に係る地区計画制度が創設され、田園住居地域と同様に、農地内における一定規模以上の開発行為等を原則不許可とするとともに、相続税・贈与税・不動産取得税について特例措置が適用されるようになりました。
これらの新たな制度は、市街化調整区域における土地利用の多様化と、都市農業の振興を両立させる可能性を秘めています。特に、都市近郊の市街化調整区域において、農業と居住機能が調和した新たな土地利用モデルを構築する上で重要な役割を果たすことが期待されています。
宅建業者として市街化調整区域の不動産取引に関わる際は、以下の点に特に注意が必要です。
【売買取引における注意点】
市街化調整区域の土地が建築可能かどうかは、単に「市街化調整区域」という区分だけでは判断できません。自治体の条例や運用基準、土地の履歴、周辺環境などによって大きく異なります。売買の仲介を行う前に、必ず該当地域の自治体に建築可能性を確認しましょう。
市街化調整区域内の既存建築物の建て替えには、様々な条件があります。例えば、既存建物と同じ用途・規模でなければならない、延床面積の1.5倍までしか拡張できないなどの制限があることが一般的です。これらの条件は自治体によって異なるため、事前確認が必須です。
市街化調整区域の不動産取引では、建築制限や将来的な建て替えの制限について、買主に対して詳細かつ正確に説明する義務があります。説明不足による後のトラブルを避けるため、都市計画法上の制限について十分な説明を行いましょう。
市街化調整区域の不動産は、金融機関による融資審査が厳しくなる傾向があります。特に建築制限がある土地については、担保価値が低く評価されることがあるため、買主が住宅ローンを利用する場合は事前に融資の可能性を確認することが重要です。
【建て替えに関する注意点】
市街化調整区域内の既存建築物の建て替えには、以下のような条件が一般的に適用されます。
これらの条件は自治体によって異なり、また時期によって運用基準が変更されることもあるため、常に最新の情報を確認することが重要です。
特に注意すべき点として、市街化調整区域内の建物を一度取り壊してしまうと、再建築が認められない場合があります。そのため、建て替えを検討する際は、必ず事前に自治体の開発許可担当部署に相談し、建て替えの可否と条件を確認するよう買主にアドバイスすることが重要です。
また、市街化調整区域内の不動産は、将来的な売却が難しくなる可能性があることも買主に説明しておくべきでしょう。特に建築制限がある土地は、購入希望者が限られるため、流動性が低くなる傾向があります。
宅建業者として、これらの知識を持ち、適切な説明と助言を行うことで、市街化調整区域の不動産取引におけるトラブルを未然に防ぐことができます。また、地域の特性や自治体の運用基準に精通することで、市街化調整区域の不動産取引における専門家としての価値を高めることができるでしょう。