

不服申立てとは、行政庁の違法または不当な処分その他公権力の行使に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続きの下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができる制度です 。この制度は行政不服審査法(平成26年法律第68号)に基づき、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的としています 。
参考)https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC0000000068
宅建業者にとって不服申立ては、建築確認処分の不許可や営業許可の取り消し、開発許可の不許可など、様々な行政処分に対して適用される重要な権利救済手段です 。特に、建築基準法や都市計画法に関連する処分については、建築審査会への審査請求という形で不服申立てを行うことができます 。
参考)https://www.foresight.jp/takken/column/violation-building/
不服申立ての特徴は、行政訴訟と比較して手続きが簡易であり、費用がかからず、迅速な解決が期待できることです 。また、処分が違法であるかだけでなく、不当であるかについても審理対象となるため、幅広い観点から行政処分の適正性を検討することが可能です 。
不服申立ては、行政庁の「処分」と「不作為」に対して行うことができます 。処分とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為を指し、宅建業の免許申請の不許可、建築確認の不許可、固定資産税の賦課決定処分などが該当します 。
参考)https://gyosyo.info/%E8%A1%8C%E6%94%BF%E4%B8%8D%E6%9C%8D%E5%AF%A9%E6%9F%BB%E6%B3%952%E6%9D%A1%E3%83%BB3%E6%9D%A1%EF%BC%9A%E5%87%A6%E5%88%86%E3%83%BB%E4%B8%8D%E4%BD%9C%E7%82%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%81%AE/
不作為については、法令に基づき行政庁に対して処分についての申請をしたものの、当該申請から相当の期間が経過したにもかかわらず、行政庁が何らの処分もしないことを指します 。例えば、宅建業者が免許の申請をしたにも関わらず、知事が許可も不許可もしない場合、不作為として不服申立ての対象となります 。
行政不服審査法における不服申立ては、従来の制度から大幅に改正され、平成28年4月1日以降の処分については、不服申立て前置制度が廃止されています 。これにより、建築確認処分や開発許可処分等については、建築審査会の裁決を経ることなく、直接裁判所に処分の取消訴訟を提起することが可能となりました 。
参考)https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/kenchiku/sodan/shinsakai/shinsaseikyuu01.html
不服申立てには主に3つの種類があります:審査請求、再調査の請求、再審査請求です 。原則となるのは「審査請求」で、これは処分を行った行政庁とは異なる審査庁が審理を行うことで、より公正な判断が期待できる仕組みです 。
参考)https://www.agaroot.jp/gyosei/column/administrative-appeals-act/
審査請求の申立先は、原則として処分庁の最上級行政庁となります 。例えば、市町村長の処分に対しては都道府県知事に、都道府県知事の処分に対しては国の行政庁に審査請求を行うことになります。ただし、建築基準法に関する処分については、建築審査会が審査庁となります 。
参考)https://www.zenkenshin.jp/sinsaseikyu/
再調査の請求は、特定の法律に特別な定めがある場合にのみ行うことができ、処分を行った行政庁に対してその処分の適正性を改めて調査するよう求める手続きです 。税務関係では、税務署長等に対する再調査の請求が制度化されており、処分の通知を受けた日の翌日から3ヶ月以内に申立てを行う必要があります 。
参考)https://zorbite.com/%E6%9D%BE%E6%B5%A6%E7%B6%9C%E5%90%88%E6%B3%95%E5%BE%8B%E4%BA%8B%E5%8B%99%E6%89%80/1366/
再審査請求は、審査請求の結果に対してなお不服がある場合に、法律に特別な定めがある場合にのみ行うことができる手続きです 。例えば、生活保護法では、市町村長の処分について都道府県知事に審査請求を行い、その裁決に不服がある場合は厚生労働大臣に再審査請求をすることができます 。
参考)https://gyosyo.info/%E8%A1%8C%E6%94%BF%E4%B8%8D%E6%9C%8D%E5%AF%A9%E6%9F%BB%E6%B3%956%E6%9D%A1%EF%BC%9A%E5%86%8D%E5%AF%A9%E6%9F%BB%E8%AB%8B%E6%B1%82/
不服申立ての期限は、原則として処分があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内です 。ただし、処分があった日の翌日から1年が経過したときは、原則として不服申立てをすることができなくなります 。なお、平成28年3月31日以前の処分については、処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内という従来の期限が適用されます 。
参考)https://www.city.obu.aichi.jp/shisei/gyouseiunei/fufuku/1003219.html
宅建業に関連する特定の処分については、異なる期限が設定されている場合があります。例えば、宅建業者に対する監督処分については、処分があったことを知った日の翌日から6ヶ月以内に不服申立てを行うことができるとされています 。
参考)https://realestate.darwin-law.jp/topic/1961/
不服申立てをすることができる者は、「行政庁の処分に不服がある者」とされており、これは行政庁の違法又は不当な処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者を指します 。不作為についての審査請求は、法令に基づき行政庁に対して処分についての申請をした者が行うことができます 。
審査請求を行う際は、審査庁に審査請求書を提出する必要があります 。審査請求書は郵送又は持参により提出し、メールやファクシミリでの提出はできません 。多くの自治体では、審査請求書のひな形及び記載例を公表しており、これらを参考にすることで適切な書面を作成することが可能です 。
審査請求が提出されると、審査庁は審理員を指名し、審理員による審理手続きが開始されます 。審理手続きでは、まず処分庁に対して弁明書の提出が要求され、その後審査請求人に対して反論書の提出機会が与えられます 。
参考)https://www.city.shizuoka.lg.jp/s4367/s008445.html
審理期間の標準的な目安として、静岡市の例では一般的な審査請求について11ヶ月とされており、審査請求書の到達から裁決まで336日程度を要するとされています 。ただし、事件の複雑さの程度や他の事件の処理状況等により、審理期間は伸縮することがあります 。
審理手続きにおいては、審査請求人は意見陳述の機会を申し立てることができ、口頭で説明した方が良い事項がある場合は口頭での意見陳述を行うことも可能です 。審理員は意見陳述の申立てがあった場合、これを拒否することはできません 。
審理の結果、裁決には「却下」「棄却」「容認」「処分変更」があります 。却下は期限を過ぎてから審査請求をした等で審査自体が行われなかった場合、棄却は内容を審査した結果不服申立てが認められなかった場合、容認は不服申立てが認められた場合、処分変更は国が行った処分が誤りだったので処分の内容を変更する場合を指します 。
参考)https://www.syougainenkin-shien.com/countermeasure
不服申立ての主要なメリットは、行政訴訟と比較して簡易迅速かつ費用がかからないことです 。申立てに際して手数料は不要であり、本人のみで手続きを行うことも可能です 。また、処分が違法であるかだけでなく、不当であるかについても審理対象となるため、より幅広い観点から救済を求めることができます 。
参考)https://kl-o.jp/2021/10/20/%E8%A1%8C%E6%94%BF%E4%B8%8D%E6%9C%8D%E5%AF%A9%E6%9F%BB%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/
国税関係の不服申立てでは、国税不服審判所に手数料などを納める必要はなく、証拠書類等の写しを請求する場合のみ原則として1枚につき10円の手数料がかかる程度です 。このような費用面でのメリットは、権利救済へのアクセシビリティを向上させています。
参考)https://www.kfs.go.jp/system/
一方で、注意すべき点として、不服申立ての結果に不満がある場合でも、一定の制約があることが挙げられます。例えば、特許の異議申立てでは、維持決定については双方とも不服申立てができず、取消決定について特許権者のみが知財高裁に不服申立て可能という制約があります 。
参考)https://skiplaw.jp/%E6%9C%AA%E5%88%86%E9%A1%9E/133/
宅建業者にとって重要な点は、建築基準法や都市計画法に基づく処分については、平成28年4月1日以降、不服申立て前置制度が廃止されており、建築審査会の裁決を経ることなく直接裁判所に取消訴訟を提起することが可能になったことです 。これにより、権利救済の選択肢が拡大し、より柔軟な対応が可能となっています。
不服申立てが認められた場合は、訴えの元となった請求手続きをしたときにさかのぼって処分が適用されるため、迅速かつ効果的な権利回復が期待できます 。