古都保存法対象地域と制限内容について

古都保存法対象地域と制限内容について

古都保存法の対象地域である8市1町1村における歴史的風土保存区域と特別保存地区の制限内容を詳しく解説。不動産取引での重要事項説明のポイントも含め、宅建業務に必要な知識を網羅的に紹介。これらの規制はどこまで影響するのでしょうか?

古都保存法対象地域の制限内容

古都保存法の基本情報
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対象地域は全国8市1町1村

京都市、奈良市、鎌倉市、天理市、橿原市、桜井市、斑鳩町、明日香村、逗子市、大津市が指定されています

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歴史的風土保存区域の届出制

建築物の新築・改築・増築、宅地造成、木竹伐採などの行為は府県知事への届出が必要

⚖️
特別保存地区の許可制

より厳格な規制により現状凍結的に保存され、色彩変更や屋外広告物も許可が必要

古都保存法の対象地域一覧

古都保存法(正式名称:古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法)は、昭和41年(1966年)に制定され、わが国固有の文化的資産として古都の歴史的風土を保存することを目的としています。
参考)https://iqrafudosan.com/channel/ancient-capitals-preservation-law-2

 

対象となる古都は以下の8市1町1村で、これらの地域では歴史的風土保存区域や歴史的風土特別保存地区の指定により、建築行為等に制限が設けられています:
参考)https://www.asukamura.jp/gyosei_asukaho_about_koto.html

 

  • 京都市 - 醍醐、東山、嵯峨嵐山、金閣寺周辺など26地区
  • 奈良市 - 春日山、平城宮跡、西ノ京など6地区
  • 鎌倉市 - 八幡宮、長谷極楽寺、山ノ内など13地区
  • 天理市 - 石上神宮、崇神景行天皇陵周辺
  • 橿原市 - 大和三山(香久山、畝傍山、耳成山)、藤原宮跡
  • 桜井市 - 三輪山、鳥見山、磐余地区
  • 生駒郡斑鳩町 - 法隆寺周辺(町域の約38%が保存区域)
  • 高市郡明日香村 - 村全域が特別保存地区に指定
  • 逗子市 - 鎌倉市と一体の保存区域
  • 大津市 - 比叡山・坂本、園城寺、石山寺など9地区

これらの地域は、かつて政治や文化の中心地として歴史上重要な地位を占め、現在でも歴史的建造物や遺跡が周囲の自然環境と一体となって古都らしさを醸し出している地域です。

歴史的風土保存区域の制限内容

歴史的風土保存区域は、国土交通大臣が指定する区域で、歴史的風土を保存するために必要な土地として位置づけられています。この区域内では、以下の行為を行う際に府県知事(政令市では市長)への届出が義務付けられています:
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001031124.pdf

 

届出が必要な行為

  • 建築物その他の工作物の新築、改築または増築
  • 宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更
  • 木竹の伐採
  • 土石類の採取
  • 歴史的風土の保存に影響を及ぼすおそれのある行為

届出の例外
ただし、通常の管理行為、軽易な行為、非常災害のため必要な応急措置として行う行為については届出は不要とされています。
参考)https://t-andco.com/kotohozonhou/

 

重要なポイントは、歴史的風土保存区域では「届出制」であり、許可制ではないということです。これは後述する特別保存地区と比較して規制が緩やかであることを意味しています。

歴史的風土特別保存地区の許可制度

歴史的風土保存区域の中心をなす特に重要な地区は、歴史的風土特別保存地区に指定されます。この地区内では現状凍結的な保存を目的とした厳格な規制が設けられており、以下の行為には府県知事の許可が必要です:
許可が必要な行為

  • 建築物その他の工作物の新築、改築または増築
  • 宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更
  • 木竹の伐採
  • 土石類の採取
  • 建築物その他工作物の色彩の変更
  • 屋外広告物の表示または掲出
  • 歴史的風土の保存に影響を及ぼすおそれのある行為

特別保存地区では、保存区域の届出制とは異なり、事前の許可が必要となるため、開発や建築に際してより慎重な検討が求められます。許可基準に適合しない場合は許可されないため、実質的に開発行為が制限される仕組みとなっています。

不動産取引における重要事項説明のポイント

宅地建物取引業法第35条により、古都保存法の対象地域内の不動産取引では重要事項説明が義務付けられています。特に以下の点について詳細な説明が必要です:
説明が必要な事項

  • 対象物件が歴史的風土保存区域または特別保存地区に該当するかの確認
  • 該当する場合の具体的な制限内容(届出制か許可制か)
  • 各行為に必要な手続きと許可基準
  • 役所の担当窓口(景観課、風致保全課等)の案内

調査方法
不動産業者は、役所の窓口や国土交通省のホームページ、「古都保存法パンフレット」等により、対象物件の該当性を確認する必要があります。各自治体によって担当部署の名称は異なりますが、景観課、自然環境課、都市景観部風致保全課等が窓口となることが多いです。
宅建実務においては、これらの制限により建築計画に大きな影響を与える可能性があるため、購入希望者に対して十分な説明を行うことが重要です。
参考)https://kenchiku-hoki.com/ancient-city/

 

古都保存法による特別措置と優遇制度

古都保存法では、厳格な制限を設ける一方で、土地所有者への配慮として様々な代償措置や優遇制度が設けられています。
土地の買入制度
歴史的風土特別保存地区内において、許可を受けることができず土地利用に支障をきたす場合、土地所有者は府県(政令市では市)に対して土地の買入を申し出ることができます。この場合、土地は時価で買い取られることになります。
税制上の優遇措置
特別保存地区に指定された土地には以下の税制優遇が適用されます。

  • 相続税の延納に伴う利子税の利率軽減
  • 固定資産税の各市町村条例による減額または免除
  • 府県による土地買入時の譲渡所得2000万円控除

これらの制度により、私有財産権の制約に対する補償が図られており、古都保存と土地所有者の権利保護のバランスが考慮されています。また、これらの優遇措置は都市計画法における地域地区制度の一環として位置づけられ、他の都市計画制限と連携した総合的な土地利用規制システムの一部となっています。