
農用地区域は、農業振興地域の整備に関する法律(農振法)により、農業振興地域内で最も厳格な土地利用制限を受ける区域です。この区域は市町村が定める農業振興地域整備計画において、長期にわたり農業上の利用を確保すべき土地の区域として指定されています。
不動産業従事者にとって重要なのは、農用地区域内の土地は原則として農業以外の用途への転用が認められていないという点です。これは単なる農地法による規制とは異なり、農振法による開発規制も同時に適用されるためです。
農用地区域の土地は一般に「農振農用地」または「農振青地(あおじ)」と呼ばれ、以下のような特徴を持ちます:
農業振興地域内でも農用地区域以外の区域は「農振白地地域」(白地)と呼ばれ、農用地区域とは大きく異なる規制体系となっています。
白地地域における農地転用は、農振法による開発規制は行われず、農地法による転用許可のみが必要となります。これにより、不動産取引においては以下のような違いが生じます:
農用地区域での転用プロセス
白地地域での転用プロセス
この手続きの違いにより、農用地区域からの除外には通常6か月から1年以上の期間を要することが多く、不動産取引のスケジュール設定において重要な考慮事項となります。
農用地区域からの除外(農振除外)を行うためには、農振法により厳格な要件が設定されています。不動産業従事者が把握すべき5つの主要要件は以下の通りです:
1. 代替性の原則
農用地等以外にすることが必要かつ適当で、農用地区域以外に代替すべき土地がないこと。これは最も厳格に審査される要件で、周辺の白地地域や既存宅地での代替可能性が詳細に検討されます。
2. 農業経営への影響
除外により周辺の農地の農業上の効率的かつ総合的な利用に支障を生じないこと。具体的には以下が考慮されます。
3. 効率的利用への配慮
農用地の集団化、農作業の効率化その他土地の農業上の効率的かつ総合的な利用に支障を生じないこと。
4. 地域計画との整合性
農業経営基盤強化促進法第19条第1項に規定する地域計画の達成に支障を生じないこと。
5. 面的整備事業との関係
土地改良事業等の効用が適切に発揮されること。特に土地改良事業完了から8年以内の農地については、原則として除外が認められません。
農用地区域の指定は単なる開発制限だけでなく、税制面での優遇措置も伴います。これらは農地の投資価値や相続対策において重要な意味を持ちます。
固定資産税の優遇措置
農用地区域内の農地は、一般農地よりも低い評価がなされることが多く、固定資産税の負担軽減効果があります。具体的には以下の特徴があります。
相続税・贈与税の特例措置
農用地区域内の農地については、以下の特例が適用される可能性があります。
これらの税制優遇は、農業継続を前提としているため、転用や非農業用途での利用を行った場合には猶予税額の一括納付が求められる点に注意が必要です。
不動産投資の観点から見落とされがちなのが、農用地区域に指定されることで受けられる各種農業振興施策の効果です。これらは直接的な収益性向上に寄与する可能性があります。
補助事業・交付金制度
農用地区域では以下の支援措置が受けられます。
営農環境の保護効果
農用地区域の指定により、以下の営農環境保護効果が期待できます。
農地集積・規模拡大への対応
農用地区域では、人・農地プランや地域計画に基づく農地集積が推進され、以下のメリットがあります。
これらの施策効果により、農用地区域内の優良農地は農業経営の安定化を通じて長期的な収益性向上が期待できる場合があります。ただし、これらのメリットを享受するためには継続的な農業経営が前提となるため、不動産投資戦略においては慎重な検討が必要です。
さらに、農用地区域の指定状況は市町村の農業振興地域整備計画の見直し(概ね5年ごと)により変更される可能性があり、長期的な土地利用計画においてはこうした制度変更リスクも考慮する必要があります。
農業振興地域農用地区域に関する更詳細な情報
農林水産省による農業振興地域制度の公式解説ページ