
使用貸借契約と賃貸借契約の最も重要な違いは、対価の有無です。賃貸借契約では賃料の支払いが必要ですが、使用貸借契約では一切の対価を支払う必要がありません。
この違いは単なる金銭的な問題ではなく、契約の性質そのものに大きな影響を与えます。
民法593条では、使用貸借について「貸主からの借用物を借主が無償で使用及び収益し、借主が使用収益した後に貸主に借用物を返還することを約束することにより、使用貸借の効力が発生する」と定めています。
不動産業界では、親族間での土地建物の貸借や、一時的な事業用地の提供などで使用貸借契約が頻繁に利用されています。特に相続対策や税務上の配慮から、あえて使用貸借契約を選択するケースも少なくありません。
使用貸借契約は口頭でも成立しますが、後々のトラブルを防ぐため契約書の作成が強く推奨されます。契約書には以下の基本項目を必ず記載する必要があります。
契約当事者の情報
貸借物件の詳細
使用目的の明確化
使用貸借契約では目的の設定が契約終了時期に直結するため、可能な限り具体的に記載します。
契約期間と終了条件
行政書士の実務経験によると、使用貸借契約書で最もトラブルになりやすいのは「使用目的」と「返還条件」の記載不備です。これらの条項が曖昧だと、契約終了時に大きな紛争に発展する可能性があります。
使用貸借契約の終了は、賃貸借契約と比較して貸主に有利な仕組みになっています。終了条件は以下の3つのパターンに分類されます。
1. 期間満了による終了
契約で定めた期間が満了すると、自動的に契約が終了します。この場合、借主は期間満了と同時に目的物を返還する義務を負います。
2. 使用目的達成による終了
使用貸借契約で定めた目的が達成された時点で契約が終了します。例えば。
3. 貸主からの解約通知
目的を定めなかった使用貸借契約では、貸主はいつでも解約を申し入れることができます。ただし、相当な予告期間を設ける必要があります。
借主の死亡による契約終了
使用貸借契約は借主の一身専属的な契約とされているため、借主が死亡すると契約は自動的に終了します。これは賃貸借契約との大きな違いの一つです。
興味深いことに、最高裁判例(平成8年12月17日)では、相続開始後の建物使用について、被相続人と相続人との間に使用貸借契約の成立が推認される場合があることが示されています。
法律上の規定とは別に、使用貸借契約には独特の「暗黙のルール」が存在することが心理学的研究で明らかになっています。
返還に関する心理的抵抗
貸主は法的には当然の権利として返還を請求できますが、実際には「若干悪びれて口実をもうけ言いわけをしてでないと、返してもらいたいとは言えない」という心理的抵抗が生じることが指摘されています。
時効に関する誤解
法律上、借りたものは何年経過しても取得時効にはなりませんが、一般的には以下のような誤解が存在します。
独自ルールの存在
日常的な使用貸借では、以下のような独自ルールが形成されがちです。
これらの心理的側面を理解することは、不動産業務において顧客との使用貸借契約を扱う際に重要な示唆を与えます。契約書作成時には、こうした心理的要因も考慮した条項設定が求められます。
使用貸借契約は税務上も特別な取り扱いを受けるため、不動産従事者は十分な理解が必要です。
贈与税の課税関係
親族間での土地の使用貸借では、原則として贈与税は課税されません。ただし、以下の場合は注意が必要です。
相続税評価への影響
使用貸借されている土地は、相続税評価において自用地評価となります。これは賃貸借の場合の借地権割合による減額がないことを意味し、相続対策上重要な考慮事項です。
所得税の取り扱い
使用貸借契約では賃料収入が発生しないため、貸主に不動産所得は生じません。一方で、借主が事業用に使用する場合でも、必要経費として賃借料を計上することはできません。
法人税法上の取り扱い
法人が関与する使用貸借契約では、以下の点に注意が必要です。
実務上、税務署は使用貸借契約の実態を厳しくチェックする傾向があります。特に親族間や関連会社間の契約では、真の使用貸借なのか、実質的な贈与や低額譲渡ではないかが問題となることがあります。
契約書作成時には、税理士との連携により適切な税務処理を確保することが重要です。また、将来的な税制改正の動向にも注意を払い、必要に応じて契約内容の見直しを行う体制を整えておくことが推奨されます。
使用貸借契約に関する詳細な法的解釈について
弁護士監修の使用貸借契約書雛形と実務ポイント
契約書作成の実務的なアドバイスについて
行政書士による使用貸借契約書作成の具体的方法