

建築基準法や宅地建物取引業法などの現行法律では、アパートとマンションを明確に区別する定義は存在しません。これは建築業界従事者にとって重要なポイントで、両者とも法的には「共同住宅」として同じカテゴリーで扱われています。
しかし、この法的曖昧さが実務上の混乱を生んでいるのも事実です。国土交通省の調査においては、マンションを「分譲・共同建」「中高層(3階建て以上)」「鉄筋コンクリート、鉄骨鉄筋コンクリートまたは鉄骨造の住宅」と定義していますが、これも特定調査における限定的な定義に過ぎません。
このため、建物の命名については大家や不動産会社の判断に委ねられており、同じ物件が不動産ポータルサイトによってアパートとマンションで異なる分類をされるケースも存在しています。
法律で明確な定義がない以上、不動産業界では構造による分類が一般的になっています。主要構造部である柱・壁・屋根の材料によって区別するのが標準的です。
アパートの構造基準:
マンションの構造基準:
この構造の違いは、建築コストや耐久性、防音性に大きく影響するため、実務上重要な判断基準となっています。特に鉄筋コンクリート造は強度があることから、マンションとしてより高層の建物建設が可能になります。
管理面における法律の適用については、所有形態によって大きく変わります。分譲マンションの場合、区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)が適用され、共用部分の管理や修繕積立金、管理組合の運営などが法的に規定されています。
一方、賃貸アパートの場合は借地借家法や民法の賃貸借契約に関する規定が主に適用されます。この違いは建築業界従事者が設計・施工時に考慮すべき重要な要素です。
分譲マンションに特有の法的要件:
これらの法的要件は建物の設計段階から考慮する必要があり、共用部分の配置や専有部分との境界設定に影響を与えます。
建築基準法では、アパートとマンションの呼称による区別はありませんが、構造や規模による規制は存在します。特に重要なのは耐火建築物の規定です。
3階建て以上かつ延べ面積が200㎡を超える共同住宅は準耐火建築物以上の構造とする必要があります。これにより、実質的に3階建て以上の建物では鉄筋コンクリート造などの堅固な構造が求められ、結果的にマンションと呼ばれる傾向があります。
また、建築基準法の防火・準防火地域における制限も、木造アパートと鉄筋コンクリート造マンションで異なる扱いとなります。
これらの規制により、立地によっては構造が制限され、結果的にアパートかマンションかの分類に影響することになります。
建築業界従事者が特に注意すべきなのは、防音性能に関する基準です。集合住宅における遮音性能は、日本建築学会の「集合住宅における遮音設計指針」で目安が示されていますが、法的拘束力はありません。
一般的な防音性能の違い:
この防音性能の差は、壁厚の違いによるものが大きく、マンションでは150mm以上の鉄筋コンクリート壁が一般的ですが、木造アパートでは石膏ボード等での間仕切りとなります。
設備面では、マンションにはオートロックや防犯カメラ、宅配ボックスなどの共用設備が設置されることが多く、これらの設備設置には建築基準法上の避難経路や共用部分の設計に配慮が必要です。
建築士として設計する際は、これらの設備配置や防音性能を踏まえた構造選択を行う必要があり、コストと性能のバランスを考慮した提案が求められます。気密性の高いマンション構造では換気計画も重要で、24時間換気システムの設置が建築基準法で義務づけられています。