
妨害排除請求権は、物権の内容の完全な実現が占有以外の形で妨害されている場合に、その物権に基づいて妨害の排除を請求する権利です。民法は所有権絶対の原則を三大原則の一つとしているため、所有権は有体物に対する全面的な支配権として認められています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/b8ae05c045cc8e9c30bb38a16b0d729acfe98794
この権利が認められる要件は以下の通りです。
✅ 物権の存在:対象である物に対し所有権・抵当権等の物権を有していること
参考)https://keiyaku-watch.jp/media/hourei/bukkenteki-seikyuken/
✅ 妨害状態の発生:自分の有する物権の行使が権限なく妨害されること
✅ 占有以外の妨害:完全に占有を奪われている以外の形で妨害されている場合
参考)https://hougakudoujou.jimdofree.com/%E6%B0%91%E6%B3%95/%E6%B0%91%E6%B3%95%E5%88%9D%E4%BC%9D/%E6%B0%91%E6%B3%95%E5%88%9D%E4%BC%9D%E4%BA%94%E6%97%A5%E7%9B%AE/
妨害排除請求権の具体例としては、自分の土地に隣接地から土砂が流入した場合の除去請求、無断建築物の収去請求、不真実な登記名義の抹消請求などが挙げられます。相手方に故意や過失があるかは関係なく、物権の行使が妨げられる状態であれば認められるのが特徴です。
返還請求権(物権的返還請求権)は、所有権などの物権を有する物が他者により正当な権限なく占有されている場合に、その物の占有の回復を求めることができる権利です。これは物権的請求権の核心部分を構成する重要な権利といえます。
参考)http://imaokapat.biz/__HPB_Recycled/yougo1200-1299/yougo_detail1253.html
返還請求権が適用される典型的な場面は、不法占拠など自分の土地や建物を完全に他人に奪われてしまっている状態です。土地・建物の所有権者は、不法占拠者に対して当該土地・建物の返還を請求する権利を有しています。
参考)https://archibank.co.jp/komon/case-law
返還請求の要件。
📋 所有者が当該土地・建物を所有していること
📋 不法占拠者が当該土地・建物を占有していること
これらの事実を立証できれば、不法占拠者による占有権限等の立証がない限り、所有権に基づく明渡請求が認められます。なお、不法占拠者に対しては登記なくても物権に基づき直接的に返還請求が可能です。
参考)https://ameblo.jp/micrayh8856/entry-12877129502.html
妨害排除請求権と返還請求権の本質的な違いは、侵害の形態が「占有」によるものか「占有以外」によるものかという点にあります。この区別は実務上極めて重要な意味を持ちます。
参考)https://forjurist.com/first-minjijitsumu7/
占有による侵害の場合は返還請求権を行使します。これは所有物の占有が完全に奪われている状態で、「返せ」「返還せよ」という請求になります。典型例として、土地の不法占拠、建物の不法占有、動産の横領などが該当します。
占有以外の妨害の場合は妨害排除請求権を行使します。自分の土地や建物は使えているものの、何らかの妨害を受けている状態が対象です。具体例には以下があります:
🏠 建築妨害:自分の土地の上への無断建築物
📄 登記妨害:不実の登記名義による妨害
🌳 利用妨害:抵当権者による樹木伐採禁止請求
騒音等の生活妨害や日照妨害に対する差止請求も、所有権に基づく妨害排除請求として認められる場合があります。
物権的請求権は、民法に明文の規定はありませんが、判例・学説により広く認められている権利です。これは物権の絶対性と排他性から導かれる当然の権利として理解されています。
民法206条は「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」と規定し、この所有権の内容を保護するために物権的請求権が認められています。
参考)https://ja.wikibooks.org/wiki/%E6%B0%91%E6%B3%95%E7%AC%AC206%E6%9D%A1
物権的請求権の特徴。
⚡ 無過失責任:相手方の故意・過失を問わない
⚡ 時効消滅なし:物権が存続する限り行使可能
⚡ 優先的効力:債権的請求権に優先
抵当権についても、抵当不動産を不当に占拠する者に対して抵当権に基づく妨害排除請求が認められています。抵当権者の優先弁済を受ける権利を侵害するような占有がなされた場合、所有者が有する妨害排除請求権の代位行使と抵当権に基づく妨害排除請求の2つの方法により対処できます。
参考)https://www.si-law-office.com/realestate/2452/
妨害排除請求権には、従来の物権保護理論を超えた独自の発展があります。特に現代社会における複雑な権利関係の中で、従来の返還請求権だけでは対応しきれない新たな妨害形態が生じています。
現代的な妨害排除請求の特徴。
🔬 技術的妨害:電波障害、地下埋設物による妨害
🏢 複合的妨害:マンション管理における共用部分の妨害
💻 情報化時代の妨害:デジタル媒体による権利侵害
実務上重要なのは、妨害排除請求権が予防的機能も持つ点です。将来の妨害のおそれがある場合には妨害予防請求権として行使でき、現実の損害発生を待たずに対処できます。
また、妨害排除請求権は行為請求権としての性格を持ちます。これは妨害者に対して妨害を排除する積極的な行為を求める権利であり、単に妨害行為をやめることを求める消極的な権利ではありません。
参考)https://www.komazawa-u.ac.jp/lawschool/about/01aonohiroyuki_1.pdf
不動産取引実務では、売買契約締結前に妨害排除請求権の行使が必要な状況があるかを慎重に調査することが重要です。特に相続不動産や長期間管理されていない不動産では、様々な形態の妨害が生じている可能性があり、適切な権利行使により円滑な取引を実現できます。