既存不適格物件の定義と違法建築物との違いを徹底解説

既存不適格物件の定義と違法建築物との違いを徹底解説

既存不適格物件とは何か、違法建築物との違い、購入時の注意点、リフォーム時の制約について不動産業従事者が知っておくべき基本知識を詳しく解説します。あなたの物件は本当に安全ですか?

既存不適格物件の基本知識

既存不適格物件の重要ポイント
🏠
定義と特徴

建築当時は適法だったが、法改正により現在の基準に適合しなくなった建物

⚖️
違法建築物との違い

建築時から違法だった建物とは法的扱いが大きく異なる

🔧
リフォーム時の制約

大規模修繕時は現行法への適合が必要になる場合がある

既存不適格物件の定義と法的位置づけ

既存不適格物件とは、建築当時は建築基準法や関連法令に適合していたものの、その後の法改正や都市計画の変更により、現在の基準では不適合となってしまった建築物のことです。

 

建築基準法第3条第2項では、法令の新設・改正・廃止時にすでに存在する建築物については、新たな規定の適用を求めないと定められています。これが既存不適格物件が存在し続けられる法的根拠となっています。

 

重要なのは、既存不適格物件は「違法建築物」とは明確に区別される点です。違法建築物は建築当初から法令に違反していた建物であるのに対し、既存不適格物件は建築時点では完全に適法だった建物なのです。

 

建築基準法は昭和25年の公布・施行以来、社会情勢の変化に合わせて頻繁に改正されています。そのため、築年数の古い中古物件では既存不適格となっているケースは決して珍しくありません。

 

既存不適格物件となる主な原因と具体例

既存不適格物件が発生する主な原因には以下のようなものがあります。
建ぺい率・容積率の変更
都市計画法や条例の改正により、建ぺい率が60%から50%に変更された場合、建築面積が敷地面積の50%を超える建物は既存不適格となります。

 

高さ制限の変更
用途地域の変更により、第2種低層住居専用地域(高さ制限12m)から第1種低層住居専用地域(高さ制限10m)に変更された場合、12mの建物は2mオーバーで既存不適格となります。

 

接道義務の強化
1950年に定められた接道義務では、幅員4m未満の道路に接する場合、セットバックが必要となり、多くの建物が既存不適格物件となりました。

 

耐震基準の変更
1981年6月以前に建築された旧耐震基準の建物は、現在では既存不適格物件となっています。

 

日影規制の適用
新たに日影規制が適用された地域では、既存建物が規制に抵触する場合があります。

 

これらの変更は、建物所有者の意思とは無関係に発生するため、多くの建物が既存不適格の状態に置かれることになります。

 

既存不適格物件の売買における注意点とリスク

既存不適格物件の売買には特有のリスクと注意点があります。

 

価格面での影響
既存不適格物件は通常の物件と比較して、相場の4~6割程度の価格で取引されることが多くなっています。これは建物の資産価値が低く評価されるためです。

 

住宅ローンの制約
金融機関は既存不適格物件を担保価値の低い物件として評価するため、住宅ローンの審査が厳しくなる傾向があります。特にネット銀行やメガバンクでは、審査に通らない可能性が高くなります。

 

売却時の困難
既存不適格物件は買い手を見つけることが困難で、売却に時間がかかる傾向があります。購入希望者が住宅ローンを利用できない可能性があるためです。

 

税制上のメリット
一方で、固定資産税や都市計画税は資産価値に基づいて算出されるため、既存不適格物件では税負担が軽減される場合があります。

 

現況調査の重要性
既存不適格物件かどうかを判断するには、「現況調査チェックリスト」を用いた詳細な調査が必要です。この調査は専門知識を要するため、不動産会社や建築士に依頼することが推奨されます。

 

既存不適格物件のリフォーム・建て替え時の制約

既存不適格物件をリフォームや建て替えする際には、重要な制約があります。

 

軽微な工事の場合
内装交換や設備の入れ替えなどの軽微なリフォームであれば、現行基準に適合させる必要はありません。既存不適格部分もそのまま維持できます。

 

大規模修繕・改築の場合
主要構造部の過半を超える改修や、スケルトンリノベーションのような大規模な工事では「建築確認申請」が必要となり、現行法への適合が求められます。

 

2025年法改正の影響
2025年の建築基準法改正により、4号特例の縮小が予定されており、小規模住宅でも厳しいチェックが行われる見通しです。これにより、リフォーム時の制約がさらに厳しくなる可能性があります。

 

増築・減築の制約
容積率や建ぺい率がオーバーしている場合、増築は不可能で、場合によっては減築が必要となることがあります。

 

建て替え時の制約
建て替えの際は、現行法に完全に適合した建物を建築する必要があります。そのため、従前と同じ規模の建物を建築できない場合があります。

 

既存不適格物件の投資価値と活用戦略

既存不適格物件は一般的にはリスクが高いとされますが、適切な戦略により投資価値を見出すことも可能です。

 

リノベーション投資の機会
購入価格が安い分、リノベーション費用に多くの予算を充てることができます。新築注文住宅と同じ総予算で、より高グレードな住まいを実現できる可能性があります。

 

賃貸経営での活用
既存不適格物件であっても、現状のまま賃貸に出すことは可能です。利回りの観点から見ると、購入価格が安い分、高い利回りを期待できる場合があります。

 

専門業者による買取
一般の買い手が見つからない場合でも、既存不適格物件を専門に扱う買取業者に売却することが可能です。現金化が早く、現状のままでも売却できるメリットがあります。

 

法改正リスクの管理
将来的な法改正により、既存不適格の状況が改善される可能性もあります。長期的な視点で保有することで、価値の回復を期待できる場合もあります。

 

立地条件の重要性
既存不適格物件であっても、立地条件が良好であれば一定の需要を見込めます。交通利便性や周辺環境を総合的に評価することが重要です。

 

ただし、既存不適格物件への投資には専門知識が不可欠です。建築基準法の理解、リフォーム費用の適切な見積もり、将来的な法改正の動向把握など、多角的な検討が必要となります。

 

不動産業従事者として既存不適格物件を扱う際は、これらのリスクと機会を十分に理解し、顧客に対して適切な説明と提案を行うことが求められます。