
増改築とリフォームの違いは、住宅を良くするための工事という点では共通していますが、工事の規模と内容が大きく異なります。リフォームは住まいの機能を維持・向上させるための修繕や改修工事全般を指し、キッチンや浴室の設備交換、トイレの手すり設置、床や壁の張り替え、外壁塗装、屋根の修理などが含まれます。
一方、増改築は「リフォームの一種」として位置づけられ、特に大規模な工事で家を部分的に取り壊して作り直す工事を指します。増改築は文字通り「増築」と「改築」を合わせた言葉で、それぞれに明確な違いがあります。
🏗️ 増築と改築の明確な区別
増築は既存の建物に新たな空間を追加することで床面積を広げる工事です。部屋を増やしたり、サンルームやウッドデッキを建てたり、車庫を増設する工事が該当します。
改築は既存の建物の間取りや構造を変更する工事で、床面積を増やす場合もあれば減らす場合もあります。壁を移動して部屋を広くしたり、部屋を分割して複数部屋にしたり、階段の位置を変更したりする工事が該当します。
建築基準法における増改築の定義は、不動産業従事者にとって重要な知識です。建築基準法では、10㎡以上の増築を行う場合、自治体もしくは民間の建築確認検査機関への「建築確認申請書」の提出が義務付けられています。
建築確認が必要な工事の基準
建築確認申請には通常2~3週間の審査期間が必要で、工事期間に加えてこの建築確認の時間も考慮する必要があります。また、建築基準法、都市計画法、消防法などの各種法令に適合する必要があり、既存不適格建築物の場合は特に注意が必要です。
増改築工事の費用は工事内容や建物の状況により大きく変動しますが、一般的な相場は約300万円~1,000万円以上となっています。
増改築費用の内訳
増築の場合、増床分の土地の確保も考慮する必要があります。今の敷地内で増築できない場合は、隣接する土地を購入する必要が生じ、土地代が追加でかかることもあります。
建築確認申請の費用は申請面積により異なり、一般的な住宅では20万円~50万円程度が相場となっています。
増改築リフォームの手続きは一般的なリフォームより複雑で、適切な手順を踏む必要があります。
増改築手続きの基本的な流れ
重要な注意点として、既存建物が現行の建築基準法に適合していない既存不適格建築物の場合、増改築工事に伴い既存部分も現行法に適合させる必要が生じる場合があります。これにより工事費用が大幅に増加する可能性があります。
不動産業従事者として理解しておくべき増改築の特徴を整理します。
増改築の主要メリット
🏡 ライフスタイル対応力
家族構成の変化や生活スタイルの変化に柔軟に対応できます。親との同居で二世帯住宅化、子どもの成長に合わせた部屋の分割・統合など、顧客のニーズに応じた提案が可能です。
💰 建て替えより経済的
建て替えに比べて費用を抑えられることが多く、家そのものは残しておけるため解体費用が少なく済みます。また、住みながら施工できる場合は仮住まい費用も不要です。
増改築の主要デメリット
💸 費用予測の困難さ
建物の状態や希望する施工内容により費用が大きく変わるため、事前の正確な見積もりが困難です。
⏰ 手続きの複雑さ
建築確認申請により工事期間が長期化し、各種法令への適合確認も必要になります。
不動産業者としての事業機会
不動産業界であまり注目されていない重要な視点として、「既存建築物の法適合性向上による資産価値増大効果」があります。
多くの既存住宅は建築時の法令には適合していても、現行の建築基準法には適合していない「既存不適格建築物」です。増改築工事を機会に現行法に適合させることで、以下のような資産価値向上効果が期待できます。
法適合性向上による効果
特に耐震基準については、1981年の新耐震基準、2000年の改正建築基準法への適合により、住宅ローン減税や地震保険料割引などの優遇措置を受けられる可能性があります。
実務での活用例
築30年以上の中古住宅購入を検討している顧客に対し、購入後の増改築計画と合わせて耐震改修工事を提案することで、住宅の安全性向上と資産価値向上を同時に実現できます。
この視点は、単なる住環境改善としての増改築から、資産価値向上戦略としての増改築へと提案の質を高める重要なポイントとなります。住宅の購入・売却・改修をトータルでサポートできる不動産業者の差別化要素として活用できる独自の知見です。