
不動産取引において、宅地建物取引業者(以下、宅建業者)は取引の対象となる物件が各種警戒区域内に位置しているかどうかを確認し、重要事項として説明する義務があります。主な警戒区域には以下のようなものがあります。
宅建業法第35条に基づく重要事項説明では、これらの区域内に物件が位置する場合、その旨を説明することが義務付けられています。特に土砂災害警戒区域については、平成7年の宅建業法改正によって、宅地建物の貸借契約をめぐるトラブルの実態等に鑑み、新たに追加された説明事項となっています。
土砂災害防止対策推進法(土砂災害防止法)に基づく土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域は、宅建業法上の重要事項説明において特に注意が必要です。
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)の特徴
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の特徴
重要事項説明では、対象物件がこれらの区域内にあるかどうかを明確に説明し、特別警戒区域の場合は、建築や開発に関する制限についても詳しく説明する必要があります。
神奈川県の例では、平成27年3月末時点で警戒区域の基礎調査完了区域数が8,862、特別警戒区域が1,174となっており、警戒区域総数(推計)は10,831とされています。各都道府県は基礎調査を完了させ、区域指定を進めていますので、最新の情報を確認することが重要です。
津波防災地域づくりに関する法律に基づく津波災害警戒区域も、宅建業法上の重要事項説明の対象となります。この区域は、津波が発生した場合に住民等の生命または身体に危害が生じるおそれがあると認められる土地の区域で、警戒避難体制を特に整備すべき区域として都道府県知事が指定します。
津波災害警戒区域に関する重要事項説明のポイント
また、津波災害警戒区域のうち、特に危険性が高い区域は「津波災害特別警戒区域」として指定されることがあります。この区域内では、一定の開発行為や建築物の建築、用途変更に都道府県知事の許可が必要となります。
神奈川県の例では、令和元年12月24日に小田原市、真鶴町、湯河原町において県内で初めて津波災害警戒区域が指定され、令和3年3月22日には藤沢市及び二宮町においても指定されています。
津波災害警戒区域と津波防護施設区域は異なる概念であることに注意が必要です。津波防護施設区域に位置している旨は、宅地の売買契約や宅地の貸借契約の場合に重要事項として説明する必要がありますが、建物の貸借契約の場合は必要ありません。一方、津波災害警戒区域に位置している旨は、すべての取引形態において重要事項として説明する必要があります。
宅建業者は、取引対象物件が各種警戒区域内に位置しているかどうかを適切に調査し、確認する義務があります。その確認方法としては以下のようなものがあります。
警戒区域情報の確認方法
例えば、神奈川県の場合、「神奈川県土砂災害情報ポータル」(http://dosyasaigai.pref.kanagawa.jp/website/kanagawa/gis/index.html)で土砂災害警戒区域等の情報を確認することができます。
重要なのは、市町村が作成するハザードマップに記載されていなくても、都道府県が指定していれば重要事項説明が必要となる点です。また、基礎調査の結果について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為は、宅建業法第47条1号に違反することになります。
水害ハザードマップについても同様に、取引対象となる宅地または建物の位置が水害ハザードマップに表示されている場合、宅建業者はその所在地を説明する義務を負います。これは売買でも貸借でも、宅地でも建物でも、すべてのパターンで重要事項とされています。
警戒区域内に位置する物件の取引においては、リスク管理と価格への影響を理解しておくことが重要です。特に土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)内の物件は、建築制限や構造規制があるため、取引価格に影響することがあります。
警戒区域内物件の価格への影響要因
不動産専門家の中には、土砂災害警戒区域内の物件購入をおすすめしないという意見もあります。その理由としては、以下のような点が挙げられています。
一方で、適切な防災対策を講じることで、リスクを軽減できる場合もあります。宅建業者としては、こうしたリスクと対策について十分な情報提供を行い、買主が適切な判断ができるようサポートすることが重要です。
また、重要事項説明を適切に行わなかった場合、後にトラブルとなり訴訟に発展するケースもあります。例えば、土砂災害警戒区域の指定可能性が高い「危険箇所」について説明せず、後に区域指定された場合に提訴されるケースなどが報告されています。
警戒区域内の物件取引では、建物状況調査(インスペクション)との関連性も重要です。特に既存住宅の取引においては、建物状況調査の実施状況とその結果の概要も重要事項説明の対象となります。
宅建業法第35条第1項第6号の2イおよび規則第16条の2の2に基づき、既存住宅の売買・貸借については、1年以内(鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等の場合は2年以内)に「建物状況調査を実施しているかどうか、及びこれを実施している場合におけるその結果の概要」が重要事項とされています。
警戒区域内の物件では、土砂災害や津波災害のリスクに加えて、建物自体の状態も重要な判断材料となります。特に、急傾斜地に面する建物の場合、基礎や擁壁の状態が土砂災害時の被害に大きく影響する可能性があります。
建物状況調査では、以下のような点に特に注意が必要です。
宅建業者は、警戒区域内の物件については、通常の重要事項説明に加えて、これらの建物状態に関する情報も適切に提供することで、より安全な取引をサポートすることができます。
また、既存住宅売買瑕疵保険の加入可否も、購入判断の重要な材料となります。警戒区域内の物件では、保険加入の条件が厳しくなる場合もあるため、その点についても説明することが望ましいでしょう。
以上のように、警戒区域内の物件取引においては、法令上の制限や重要事項説明の義務を正確に理解し、適切な情報提供を行うことが、宅建業者にとって非常に重要です。これにより、取引の安全性を高め、将来的なトラブルを防止することができます。