
土砂災害防止法は、正式名称を「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」といい、平成11年に発生した土砂災害を契機に制定されました。都市化の進行により山裾間際まで新興住宅地が拡大していた地域での災害が背景にあります。
この法律の主な目的は、土砂災害から国民の生命および身体を保護することです。具体的には、土砂災害が発生するおそれのある区域について、危険の周知、警戒避難体制の整備、住宅等の新規立地の抑制、既存住宅の移転促進などのソフト対策を推進することを目指しています。
土砂災害防止法が対象としている災害は主に以下の3種類です。
これらの災害は突発的に発生することが多く、一度発生すると人命に関わる重大な被害をもたらすことがあります。そのため、事前の対策と警戒が非常に重要となるのです。
土砂災害防止法では、危険度に応じて2種類の区域が指定されます。これらの区域指定は、宅建業者が重要事項説明で説明すべき重要な内容となります。
1. 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)
土砂災害警戒区域は、土砂災害が発生した場合に住民の生命または身体に危害が生じるおそれがあると認められる区域です。この区域では、以下の対策が実施されます。
2. 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)
土砂災害特別警戒区域は、警戒区域のうち、土砂災害が発生した場合に建築物に損壊が生じ、住民等の生命または身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる区域です。この区域では、イエローゾーンの対策に加えて、以下の規制が行われます。
2025年4月現在、全国で約57万4千区域が土砂災害警戒区域に、約42万8千区域が土砂災害特別警戒区域に指定されています。これらの区域は年々増加傾向にあり、宅建業者はこの動向に注意を払う必要があります。
宅建業法では、宅地建物取引業者が取引の相手方に対して、契約締結前に重要事項を説明する義務を課しています。平成7年の宅建業法改正により、土砂災害警戒区域内にある物件については、その旨を説明することが義務付けられました。
重要事項説明における土砂災害防止法関連の説明事項
取引対象となる宅地または建物が土砂災害警戒区域内にあるか否かについては、すべての取引(売買・交換・賃借)において説明が必要です。これは消費者保護の観点から非常に重要な項目となっています。
説明すべき内容は以下の通りです。
宅建業者は、物件調査の際に必ず行政機関に確認するか、ハザードマップなどで正確な情報を入手する必要があります。誤った説明や説明漏れは、重大な契約不適合責任や損害賠償請求の原因となる可能性があります。
土砂災害防止法は、土砂災害対策のためのソフト対策を主に規定していますが、他にも土砂災害に関連する法令があります。宅建業者はこれらの違いを理解し、適切な説明ができるようにしておく必要があります。
ハード対策3法とソフト対策法の違い
土砂災害に対応する法令は、大きく分けて「ハード対策法」と「ソフト対策法」に分類されます。
これらの法律の大きな違いは、ハード対策法が主に災害発生源の規制と対策工事について定めているのに対し、土砂災害防止法は警戒避難体制の整備や住宅の立地抑制など、情報提供や規制によるソフト面での対策を重視している点です。
宅建業者は、物件がこれらの法律によってどのような制限を受けているかを正確に把握し、説明する必要があります。
土砂災害防止法に基づく区域指定がされている土地では、様々な建築・開発の制限があります。宅建業者はこれらの制限について正確に理解し、取引相手に説明する必要があります。
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)での制限
土砂災害警戒区域内では、直接的な建築制限はありませんが、市町村地域防災計画に基づいて警戒避難体制が整備されます。具体的には以下のような対策が行われます。
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)での制限
土砂災害特別警戒区域内では、より厳しい制限が課されます。
特別警戒区域内で住宅地分譲や社会福祉施設、学校、医療施設などの災害時要援護者施設の建築のための開発行為を行う場合、都道府県知事の許可が必要です。許可を得るためには、土砂災害を防止するための対策工事の計画が安全確保のための技術基準に適合していることが求められます。
特別警戒区域内で建築物を建てる場合、土砂災害の発生原因となる自然現象により建築物に作用すると想定される衝撃に対して安全な構造であることが求められます。具体的には、建築基準法第20条第1項に基づく政令で定められた構造耐力に関する基準に適合する必要があります。
特別警戒区域内の既存建築物について、都道府県知事は、建築物の所有者等に対して移転等を勧告することができます。また、移転等を行う者に対して、費用の一部について補助を行う制度があります。
これらの制限は、土地の価値や利用可能性に大きな影響を与えるため、宅建業者は取引相手に対して詳細かつ正確に説明する必要があります。
宅建試験では、土砂災害防止法に関する問題が頻出しています。宅建業者として必要な知識を身につけるためにも、出題傾向と対策を押さえておきましょう。
主な出題ポイント
対策のポイント
宅建試験対策としては、以下の点に注意して学習を進めるとよいでしょう。
特に、「すべての取引(売買・交換・賃借)において説明が必要」という点は、宅建試験でよく問われるポイントです。また、区域指定の種類と内容についても、正確に理解しておく必要があります。
土砂災害防止法は、不動産取引の実務において非常に重要な意味を持ちます。宅建業者として知っておくべき実務上の注意点を解説します。
1. 正確な情報収集の方法
土砂災害警戒区域等の指定状況を確認する方法としては、以下のような手段があります。
特に、最新の指定状況を確認することが重要です。区域指定は随時見直されており、取引時点での最新情報を入手する必要があります。
2. 説明方法と説明時の注意点
重要事項説明時には、単に「区域内にある」という事実だけでなく、以下のような点も説明すると親切です。
説明の際は、専門用語をできるだけ避け、わかりやすい言葉で説明することが大切です。また、不安をあおるような説明は避け、客観的な事実を伝えるよう心がけましょう。
3. 買主・借主への配慮
区域内の物件を扱う際は、買主や借主に対して以下のような配慮が必要です。
特に、土砂災害特別警戒区域内の物件については、将来的な建て替えや増改築の際の制限についても説明しておくと、後々のトラブルを防ぐことができます。
4. 売主・貸主への対応
売主や貸主に対しては、以下のような対応が必要です。
区域指定されている物件は、一般的に市場価値が低くなる傾向がありますが、そのことを理由に情報を隠すことは、重大な責任問題につながる可能性があります。
不動産取引における災害リスク情報の取扱いについて
宅建業者として、土砂災害防止法に関する正確な知識を持ち、適切な説明を行うことは、顧客の信頼を得るためにも、また法的責任を果たすためにも非常に重要です。常に最新の情報を入手し、適切な対応を心がけましょう。