津波災害警戒区域の指定基準と不動産業界への影響

津波災害警戒区域の指定基準と不動産業界への影響

津波災害警戒区域の指定により不動産業界に課せられる重要事項説明義務と、警戒避難体制整備について詳しく解説。居住誘導区域との関係や各都道府県の指定状況についても紹介します。この区域指定が不動産取引にどのような影響を与えるのでしょうか?

津波災害警戒区域の基本概念と法的位置づけ

津波災害警戒区域の基本構成要素
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警戒区域の定義

津波発生時に住民の生命・身体に危害が生じるおそれがある区域で、警戒避難体制の整備が必要な地域

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法的根拠

津波防災地域づくりに関する法律第53条に基づき、都道府県知事が指定する

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不動産取引への影響

重要事項説明における必須項目として、売買・交換・賃借すべての取引で説明義務が発生

津波災害警戒区域の法的定義と制定背景

津波災害警戒区域は、津波防災地域づくりに関する法律(平成23年法律第123号)第53条に基づき指定される区域です。この法律は、平成23年3月に発生した東日本大震災による甚大な津波被害を受け、最大クラスの津波が発生しても「なんとしても人命を守る」という考えのもと制定されました。
最大クラスの津波が発生した場合に、住民等の生命・身体に危害が生ずるおそれがある区域で、津波災害を防止するために警戒避難体制を特に整備すべき区域として位置づけられています。都道府県知事が基本指針に基づき、津波浸水想定を踏まえて指定することができる仕組みとなっています。
特徴的なのは、この警戒区域内には土地利用や開発行為等に規制はかからないという点です。これは津波災害特別警戒区域(レッドゾーン)とは異なり、津波災害警戒区域(イエローゾーン)は主に情報提供と避難体制整備に重点を置いた制度設計となっています。

津波災害警戒区域指定における基準水位の重要性

津波災害警戒区域の指定に当たっては、「基準水位」も併せて公示されることが法律で定められています。基準水位とは、津波から避難する上での有効な高さを示すものであり、避難施設整備の目安となる重要な指標です。
和歌山県では平成28年4月19日に19市町を対象として津波災害警戒区域を指定しており、この際に基準水位の公表により効率的な避難対策が可能となることを強調しています。基準水位により避難施設整備の目安が明確になるため、自治体の防災計画策定に大きな意味を持ちます。
愛知県では平成26年11月に津波防災地域づくりの基礎資料となる「津波浸水想定」を設定・公表し、令和元年7月30日に26市町村において津波災害警戒区域を指定しました。このように、基準水位の設定は段階的に進められており、科学的根拠に基づいた精密な検討が行われています。

津波災害警戒区域と居住誘導区域の関係性

都市計画分野において、津波災害警戒区域は居住誘導区域の設定に重要な影響を与えています。2020年9月に改正された都市再生特別措置法施行令では、津波災害特別警戒区域を含む災害レッドゾーンは居住誘導区域から原則除外することが明記されています。
一方、津波災害警戒区域を含む災害イエローゾーンについては、比較的多くの自治体が居住誘導区域に含んでいる実態があります。これは土地利用規制がかからない津波災害警戒区域の性格を反映したものですが、防災上の観点から慎重な検討が必要とされています。
立地適正化計画制度では、「人口密度」「公共交通利便性」「災害危険性」の3つの観点から居住誘導区域を定めることが推奨されており、津波災害警戒区域の存在は災害危険性の重要な指標となっています。

津波災害警戒区域における不動産取引の重要事項説明義務

不動産取引において、津波災害警戒区域は重要事項説明の必須項目となっています。宅地建物取引業法第35条及び宅地建物取引業法施行規則第16条の4の3により、津波災害警戒区域に位置する物件を取引対象にする場合は、重要事項として説明する必要があります。
この説明義務は、宅地・建物の売買、交換、賃借のいずれの場合でも適用されます。宅地建物取引業者は、対象物件が「津波災害警戒区域」内である旨を記載した重要事項説明書を交付し、説明を行わなければなりません。
特に注目すべきは、津波災害特別警戒区域内に宅地建物があるとき、実際の説明にあたっては「この物件が所在する場所は津波災害警戒区域内にあり、かつ、津波災害特別警戒区域として指定されており、そのため一定の開発行為・建築行為に対する行為制限がかかっている」旨を重要事項として説明することが望ましいとされている点です。

津波災害警戒区域指定による保険業界への潜在的影響

従来の研究や報道では十分に注目されていませんが、津波災害警戒区域の指定は保険業界にも大きな影響を与える可能性があります。火災保険の地震保険特約において、津波災害警戒区域内の物件は保険料率の見直し対象となる可能性が高く、不動産価値の評価にも影響を与える要因となります。

 

また、金融機関における住宅ローン審査においても、津波災害警戒区域内の物件は担保評価の際に慎重な検討が必要となる場合があります。これは直接的な法的制限ではありませんが、実質的に不動産取引に影響を与える重要な要素として認識されつつあります。

 

さらに、企業の事業継続計画(BCP)策定において、津波災害警戒区域内の事業所は特別な防災対策が求められるため、企業の立地戦略にも影響を与える可能性があります。これらの間接的な影響は、今後の不動産市場において重要な検討要素となることが予想されます。