
是正勧告と指導の最も重要な違いは、法令違反の確実性にあります。是正勧告は明確な法律違反が確認された場合に出されるのに対し、指導は違反の可能性がある段階や改善が望ましい事項について出される措置です。
労働基準監督署の調査では、この両者は明確に使い分けられています。是正勧告は「行政指導」の一種であり、法的拘束力はありませんが、違法状態が確実に存在する場合の強い警告として位置づけられます。一方、指導票による指導は、まだ違法ではないものの、継続すると問題となる可能性がある事項について早期の改善を促すものです。
是正勧告は「行政処分」ではなく「行政指導」に分類されるため、直接的な法的拘束力は持ちません。しかし、これを軽視してはいけません。行政指導の中でも、助言<指導<勧告の順に強度が増していき、是正勧告は最も強い形の行政指導として位置づけられています。
是正勧告書には具体的な法令違反の内容と是正期限が明記されます。例えば、労働基準法第32条違反(時間外労働に関する協定の締結なく残業させている)などが記載され、所定の期日までに改善を求められます。期限内に改善されない場合や悪質と判断される場合は、検察庁への書類送検の可能性もあります。
建築基準法の分野では、是正勧告は違反建築物に対する初期段階の措置として行われ、所有者、建築主、工事施工者、設計者などが対象となります。違反建築物の是正勧告も法的拘束力はありませんが、放置すると是正命令という強制力のある処分につながる可能性があります。
指導票による指導は、明確な法律違反ではないものの、改善することが望ましい事項について交付されます。労働基準監督署の場合、法令違反の手前の段階や、現在は適法だが継続すると違反になる可能性がある状況で発出されます。
具体的な例として、労働基準法の定める範囲内ではあるものの長時間の残業が継続している場合、将来的に法律違反となるリスクがあるため指導票が交付されることがあります。このような予防的な措置により、企業が早期に改善を図ることで、実際の法令違反を未然に防ぐ効果があります。
指導の段階では企業への配慮もあり、比較的穏やかな表現で改善を求められることが多いですが、指導を受けた内容についても可能な限り改善を行い、労働基準監督署への報告を行うことが推奨されます。
労働法令における是正勧告の対象となりやすい違反事例は多岐にわたります。最も頻繁に見られるのは労働時間に関する違反で、36協定を締結せずに時間外労働をさせていることや、締結していても協定届を労働基準監督署に提出していないケースです。
割増賃金の未払いも重要な違反事例です。残業代、深夜労働手当、休日労働手当の計算や支給が適切に行われていない場合、明確な労働基準法違反として是正勧告の対象となります。また、就業規則の不備や労働契約書の未作成・記載不備、法定帳簿の未整備なども典型的な違反として指摘されます。
建築分野では、建築確認を受けずに建築工事を行う無確認建築、確認申請書と異なる建築を行う違反建築が主要な対象です。これらの違反は建築基準法違反として、是正勧告から始まり、従わない場合は是正命令、さらには工事停止命令や使用禁止命令へと段階的に処分が重くなります。
是正勧告に従わない場合の処分は段階的に重くなる仕組みになっています。労働法令では、是正勧告を無視し続けると書類送検され、労働基準法に定められた罰則(懲役刑や罰金刑)の対象となる可能性があります。
建築基準法における処分段階はより明確で、是正指導→是正勧告→是正命令→工事停止命令・使用禁止命令→行政代執行という流れになります。是正命令は建築基準法第9条に基づく法的拘束力を持つ処分で、従わない場合は過料が科せられます。
最終段階の工事停止命令が出されると、現場に告知看板が立てられ、建物に「工事停止」の赤字ラベルが貼られます。さらに、電気・ガス・水道事業者に供給停止の協力が求められ、実質的に工事継続が不可能になります。このような段階的処分により、違反者に改善を促し、最終的には強制的な是正措置が取られる仕組みとなっています。
是正勧告を受けた場合は、まず勧告書の内容を詳細に確認し、違反事項と是正期限を正確に把握することが重要です。労働基準法違反の場合、36協定の締結、残業代の計算と支給、帳簿類の整備など、具体的な違法状態の解消措置を講じる必要があります。
是正報告書の作成と提出も重要な手続きです。是正期限までに改善措置を完了し、その内容を詳細に記載した報告書を労働基準監督署に提出します。報告書には、違反事項ごとの具体的な改善内容、改善完了日、再発防止策などを明記する必要があります。
建築基準法違反の場合も同様で、是正計画書の提出から始まり、実際の改善工事、完了報告という流れになります。比較的軽微な違反であれば必要な手続きを行うことで合法化が可能ですが、大幅な違反や安全上の問題がある場合は、建物の使用制限を受ける可能性もあるため、速やかな対応が不可欠です。
是正勧告と指導の違いを理解し、それぞれに応じた適切な対応を行うことで、深刻な処分を回避し、法令遵守体制の確立を図ることができます。どちらの場合も、早期の改善と確実な報告が、事業継続と信頼維持の鍵となります。