
不動産の鑑定評価に関する法律は、不動産鑑定士の資格や不動産鑑定業について定めた法律です。宅建試験においては「税・その他」の分野で出題され、不動産鑑定評価基準と地価公示法が交互に出題される傾向があります。不動産の適正な価格形成に寄与することを目的としており、宅建業務を行う上でも重要な知識となります。
不動産の鑑定評価に関する法律は、昭和38年に制定された法律で、不動産鑑定業および不動産鑑定士について必要な事項を定め、土地等の適正な価格形成に資することを目的としています。この法律によって、不動産鑑定士という国家資格が創設され、不動産の経済価値を判定し価額に表示する「不動産の鑑定評価」を行う専門家としての地位が確立されました。
不動産鑑定業とは、他人の求めに応じて報酬を得て鑑定評価を業として行うことを指します。宅建業者が取引の参考として価格査定を行うこととは異なり、公的な評価として法的効力を持つ場面も多くあります。
この法律の主な内容は以下の通りです。
宅建試験では、不動産鑑定評価基準に関する問題が出題されることが多く、特に鑑定評価の三手法(原価法、取引事例比較法、収益還元法)や価格の種類(正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格)についての理解が求められます。
原価法は、不動産の鑑定評価における三手法の一つで、対象不動産の再調達原価に着目して価格を求める手法です。この手法で求められる試算価格を「積算価格」と呼びます。
原価法の基本的な考え方は、「その不動産を新たに造るとしたらいくらかかるか」という視点から価格を算定するものです。具体的な計算式は以下の通りです。
積算価格 = 再調達原価 - 減価修正額
再調達原価とは、価格時点においてその不動産を新たに造った場合にかかる費用のことです。土地の場合は造成費用、建物の場合は建築費用が基本となります。減価修正とは、経年劣化や機能的陳腐化などによる価値の減少分を差し引く作業です。
原価法の適用対象と特徴は以下の通りです。
宅建試験では、原価法の基本的な考え方や適用対象についての理解が問われることが多いです。特に「土地のみの場合は原価法が適用できない」という誤った選択肢がよく出題されますが、造成地などの場合は土地のみでも原価法が適用できることを覚えておきましょう。
取引事例比較法は、対象不動産と類似の不動産の取引事例を収集し、それらを比較検討することで価格を求める手法です。この手法で求められる試算価格を「比準価格」と呼びます。
取引事例比較法は、市場における実際の取引価格を基礎とするため、市場価値を直接的に反映した評価方法といえます。不動産鑑定評価の中でも最も一般的に用いられる手法で、特に住宅地や商業地などの一般的な不動産の評価に適しています。
取引事例比較法の手順は以下の通りです。
取引事例の選択にあたっては、以下の点に注意する必要があります。
宅建試験では、「特殊事情のある事例は採用できない」という誤った選択肢がよく出題されますが、事情補正が可能であれば採用できることを理解しておきましょう。また、取引事例比較法が有効な場合についても問われることがあります。
実務では、中古住宅の評価方法として最も一般的に用いられており、宅建業者が行う価格査定においても、この手法の考え方が基本となっています。
収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求める手法です。この手法で求められる試算価格を「収益価格」と呼びます。
収益還元法は、投資用不動産やオフィスビル、商業施設などの収益物件の評価に特に有効ですが、自用の不動産であっても賃貸を想定することで適用可能です。不動産の経済価値の本質は収益性にあるという考え方に基づいています。
収益還元法には、主に以下の2つの方法があります。
収益価格 = 一期間の純収益 ÷ 還元利回り
収益価格 = Σ(t期の純収益の現在価値) + 復帰価格の現在価値
収益還元法の適用にあたっては、以下の要素を考慮します。
特に、市場における土地の取引価格の上昇が著しい時には、収益還元法を積極的に活用することが推奨されています。これは、収益還元法が不動産の本質的な価値を示すことができ、投機的な価格上昇の影響を排除できるためです。
宅建試験では、収益還元法の基本的な考え方や適用対象についての理解が問われます。特に「自用の住宅地には適用できない」という誤った選択肢がよく出題されますが、賃貸を想定することで適用可能であることを覚えておきましょう。
最有効使用の原則は、不動産鑑定評価における重要な概念で、不動産の価格はその不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(最有効使用)を前提として把握される価格を標準として形成されるという原則です。
最有効使用とは、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものとされています。つまり、その不動産をどのように使えば最も価値が高くなるかという観点から判断されます。
最有効使用の判定にあたっては、以下の4つの要件を満たす必要があります。
土地建物一体の不動産の最有効使用の判定は、以下のいずれかになります。
宅建試験では、最有効使用の原則の基本的な考え方や、現実の使用方法が必ずしも最有効使用に基づいているとは限らないことなどが問われることがあります。
最有効使用の原則は、不動産の価格形成の基礎となる重要な概念であり、宅建業者が価格査定や不動産コンサルティングを行う際にも、この考え方を理解しておくことが重要です。例えば、古い戸建住宅が建っている土地でも、最有効使用がマンション用地である場合は、その潜在的な価値を考慮した価格形成がなされることがあります。
不動産鑑定評価基準では、価格の種類として主に以下の4つが定義されています。宅建業者が実務で価格を扱う際にも、これらの概念を理解しておくことが重要です。
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格です。不動産鑑定評価で求める価格は、基本的にはこの正常価格となります。
限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合や不動産の一部を取得する際の分割等に基づき、正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格です。
例えば、隣地を買収して自己の所有地と一体利用する場合や、大きな土地の一部だけを取得する場合などに適用されます。
特定価格とは、法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、正常価格の前提となる市場概念とは異なる市場における不動産の経済価値を適正に表示する価格です。
例えば、資産の流動化に関する法律に基づく評価や、会社更生法に基づく評価などに適用されます。
特殊価格とは、文化財や公共公益施設など、市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格です。
例えば、神社仏閣、学校、公園などの評価に適用されます。
宅建試験では、これらの価格の種類の定義や適用場面についての理解が問われることがあります。特に正常価格と限定価格の違いや、特定価格が適用される場面などが出題されやすいです。
宅建業者の実務においては、主に正常価格の概念に基づいて価格査定や価格提案を行うことが多いですが、隣地の買収や土地の分割売却などの場面では、限定価格の考え方が参考になることもあります。また、不動産投資や証券化の場面では、特定価格の概念も関わってくることがあります。
以上のように、不動産鑑定評価における価格の種類を理解することは、宅建業者が適切な価格判断を行う上で重要な知識となります。
不動産鑑定評価基準の詳細解説(フォーサイト)
不動産鑑定評価基準は、宅建試験において毎年のように出題される重要分野です。宅建業者として日常業務を行う上でも、不動産の価格形成要因や評価手法についての基本的な知識は必須といえるでしょう。特に、原価法、取引事例比較法、収益還元法の三手法の特徴と適用場面、正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格の違いについては、しっかりと理解しておくことが重要です。
また、最有効使用の原則は、不動産の価格形成の基礎となる概念であり、宅建業者が価格査定や不動産コンサルティングを行う際にも、この考え方を理解しておくことが求められます。
不動産の鑑定評価に関する法律や不動産鑑定評価基準は、単に宅建試験の出題分野としてだけでなく、実務において適切な価格判断を行うための重要な知識基盤となります。宅建業者として、これらの知識を身につけ、顧客に対して適切な価格提案やアドバイスができるようになりましょう。