
住民基本台帳法における本人確認制度は、平成20年5月1日の法改正により法定化された重要な制度です 。この制度の法的根拠は住民基本台帳法第12条の本人確認規定に基づき、市町村長が住民票の写し等の交付請求を受けた際に、請求者の本人確認を義務付けています 。なりすましによる不正な申請を防止し、個人情報を保護することが主たる目的とされています 。
参考)https://www.city.nagoya.jp/sportsshimin/page/0000011357.html
本人確認の実施義務は、住民基本台帳事務だけでなく戸籍法においても同様に規定されており、両法律の改正により包括的な本人確認制度が構築されました 。この法改正により、従来の任意的な本人確認から法定義務へと転換し、より厳格な身元確認が求められるようになりました 。
参考)https://www.city.kiryu.lg.jp/kurashi/juminhyo/koseki/1000648.html
住民基本台帳法施行規則においては、本人確認の具体的な方法や手続きが詳細に規定されており、実務上の運用基準が明確化されています 。本人確認情報の通知・保存についても法第30条の18において規定され、機構保存本人確認情報の適切な管理が義務付けられています 。
参考)https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000008035/
住民基本台帳法における本人確認書類は、官公署が発行した顔写真付きの証明書を1点、または顔写真なしの書類を2点組み合わせる方式で運用されています 。顔写真付きの本人確認書類として認められるものには、運転免許証、マイナンバーカード、パスポート、住民基本台帳カード、在留カードなど42種類の書類が指定されています 。
参考)https://www.city.warabi.saitama.jp/kurashi/koseki/juki/1001146.html
特に注目すべき改正として、令和5年2月1日付で犯罪収益移転防止法施行規則が改正され、戸籍の附票の写しが単独で本人確認書類として利用可能になったことが挙げられます 。これは住民基本台帳法の改正により、戸籍の附票の記載事項に「出生の年月日」が追加されたことを受けた措置です 。
参考)https://wada7772.com/blog/guide_to_various_procedures/post-460.html
顔写真なしの書類による確認では、健康保険被保険者証、介護保険被保険者証、各種年金証書等を組み合わせて使用することができます 。ただし、法人発行の証明書(社員証等)や学生証は補完書類として位置付けられ、単独での本人確認には使用できません 。
本人確認書類の有効性については、有効期限内のものに限定されており、期限切れの書類は法的効力を持たないとされています 。また、書類の偽造や変造に対しては、刑法上の公文書偽造罪(1年以上10年以下の懲役)による厳罰が科せられます 。
参考)https://keijibengo-line.com/post-8887/
犯罪収益移転防止法は、宅地建物取引業者を「特定事業者」として位置付け、特定取引実施時の本人確認義務を課しています 。この法律による義務は4つの主要な措置から構成されており、①本人確認の実施、②本人確認記録の作成・保存、③取引記録の作成・保存、④疑わしい取引の届出が含まれます 。
参考)https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000069.html
宅建業者の本人確認対象は、個人顧客の場合は氏名・住所・生年月日の3つの本人特定事項、法人顧客の場合は名称と本店または主たる事務所の所在地の確認が必要です 。さらに法人取引では、25%超の議決権を有する実質的支配者の確認も義務付けられています 。
参考)https://biz.homes.jp/column/topics-00293
本人確認記録の保存期間は7年間と定められており、文書またはパソコン入力等による記録作成が義務化されています 。過去に取引実績のある顧客についても、なりすましの疑いがある場合は改めての確認が必要とされ、継続的なリスク管理が求められています 。
参考)https://www.takkengyo-menkyo.com/bosiho.html
宅建業者には善良な管理者の注意義務(善管注意義務)も課されており、民法644条・656条に基づく委任事務処理義務の一環として本人確認が位置付けられています 。これにより、単なる法令遵守を超えた積極的なリスク防止措置が期待されています 。
参考)https://www.zennichi.or.jp/law_faq/%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%99%E3%81%BE%E3%81%97%E5%8F%96%E5%BC%95%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%AE%85%E5%BB%BA%E6%A5%AD%E8%80%85%E3%81%AE%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E7%A2%BA%E8%AA%8D%E7%BE%A9%E5%8B%99/
不動産売買取引では、司法書士による本人確認が「人・物・意思」の三要素確認として実施されており、住民基本台帳法に基づく本人確認書類の提示が必要不可欠です 。決済日における本人確認では、登記簿謄本や公図等による物件確認と併せて、権利証や登記識別情報の提示による意思確認が行われます 。
参考)https://sumai-step.com/column/article/52195/
代理人による取引では、代理人自身の本人確認に加えて委任状による代理権限の確認が必要であり、二重の身元確認システムが構築されています 。委任状には代理人の氏名・住所・代理権の内容が記載され、本人からの正当な委任であることの証明が求められます 。
参考)https://www.i-dea.co.jp/cms/slog/entry/126
住民基本台帳法違反に対する罰則として、偽りその他不正の手段により証明書の交付を受けた者に対しては30万円以下の罰金が科されるなど、制裁措置が強化されています 。これにより、不正な本人確認書類の使用に対する抑制効果が期待されています 。
参考)https://www2.town.komono.mie.jp/www/contents/1670221907539/index.html
不動産業界では、犯罪収益移転防止法等に関する連絡協議会が設置され、業界全体での本人確認制度の適切な運用が推進されています 。宅地建物取引業におけるハンドブックも定期的に改訂され、最新の法令改正に対応した実務指針が提供されています 。
参考)https://www.retpc.jp/shien/maneron/
住民基本台帳法による本人確認制度は、なりすまし犯罪の防止において重要な役割を担っています 。顔写真付き本人確認書類の要求により、第三者による身元詐称を効果的に防止し、個人情報の不正取得を阻止する仕組みが構築されています 。
参考)https://f-mikata.jp/rosette-436/
本人確認書類の偽造に対しては、刑法上の厳重な処罰規定が設けられており、有印公文書偽造罪では1年以上10年以下の懲役、無印公文書偽造罪では3年以下の懲役または20万円以下の罰金が科されます 。運転免許証等の偽造には特に重い処罰が規定されており、強力な抑制効果を発揮しています 。
参考)https://keijibengo-line.com/post-9876/
マイナンバーカードや住民基本台帳カードの導入により、本人確認制度の信頼性が向上し、デジタル時代に対応した身元確認システムが整備されています 。顔写真付きカードの普及により、より確実な本人確認が可能になり、なりすまし犯罪の防止効果が高まっています 。
参考)https://ekyc.nexway.co.jp/blog/8
eKYC(electronic Know Your Customer)技術の発展により、デジタル本人確認も可能になりつつありますが、住民基本台帳法に基づく物理的書類の確認が依然として重要な役割を果たしており、オンライン・オフライン双方での本人確認体制が整備されています 。
住民基本台帳法の継続的な改正により、本人確認制度は時代の要請に応じた発展を遂げています 。令和4年1月11日以降の戸籍の附票への出生年月日記載義務化は、個人識別精度の向上を図る重要な改正として評価されています 。
本人確認書類のデジタル化への対応も進んでおり、マイナンバーカードのICチップ機能を活用した高度な認証システムの導入が検討されています 。住民基本台帳ネットワークシステムとの連携により、全国規模での統一的な本人確認制度の構築が進められています 。
参考)https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000081
国際化の進展に対応して、在留カードや特別永住者証明書などの外国人向け本人確認書類も制度に組み込まれ、多様化する居住者への対応が図られています 。これにより、日本に居住する全ての人々に対する統一的な本人確認制度が実現しています。
住民基本台帳法における本人確認制度は、今後もデジタル技術の進歩や社会情勢の変化に応じて継続的な改善が図られる見込みです。AI技術を活用した顔認証システムや生体認証技術の導入により、より高度で確実な本人確認システムの構築が期待されています 。行政手続きのデジタル化推進と併せて、住民の利便性向上と個人情報保護の両立を図る制度設計が重要な課題となっています。